虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
帰国祭り その05
まあ、一気に繁盛するわけじゃない。
たとえテーリアがどのような人物であろうと、先ほどと同じ姿のままでは、宣伝しようとただの変人として見られるだろうし。
タコ焼きを量産し、余った分はお土産用に箱に詰めて仕舞っていく。
その作業が三十分ほど続いた頃だろうか、少し状況に変化が生じ始める。
「──ん? 何か言ってるな」
《どうやらさっそく広まり始めたようです》
遠くからこの屋台を見つめる男性が一人。
何度か頭を抱えるアクションを取り、首を横に振ってはぶつぶつと呟いている。
集音機を使って聞いてもいいが、タコ焼き作成の邪魔になるので『SEBAS』に頼んで代わりに聞いてもらう。
《偽名を用いたテーリアの名を挙げ、本当にこれがアレなのかなどと言っております》
「偽名……って、まあしょうがないか。どうせなら、俺にもそうしてほしかったが……無理な話だよな」
《おや? どうやら覚悟を決めたようです》
「そっか。なら、こっちも迎え入れようか」
なんだか引き締まった顔つきをした男が、屋台の前に立つ。
ゴクリと唾を飲み下し、胸いっぱいに辺りの空気を吸い込み──
「タコ焼きを、一つもらおうか」
「はい、一パック分ですね。代金は銅貨三枚となります」
「そ、そんなに安いのか?」
「ええ、私が材料を捕って来ましので。その分、価格をお安くできたんですよ」
今も捕れるかは微妙だが、複製すればいくらでも量産できる現状だ。
ついでに言えば、『SEBAS』が繁殖に成功しているらしい……だからこそ、タコ焼きになったというのもある。
「それに、本日はお祭りですよ? 私もこの国に恩義がある身として、王女様のご帰還を祝して奮発しているのです──はい、できあがりましたよ」
「あっ、ああ……」
受け取ったタコ焼き。
いっしょに付けた小さな串にその一つを刺し、口の中に抛り込み──
「──ッ!? あ、熱ッ!」
「しっかりと息を吐いてください。空気を取り入れれば、少しずつ程良い温かさになっていきますので」
「はふっはふっ……旨いな」
「ははっ、そういってもらえるとこちらも真心籠めて作った甲斐がありますよ」
オクトパスだオクトパスだと怯えていた男が、今やすっかり齧り付いている。
そう、まさにそういうシーンを見たかったのだよ俺は。
「お客さん、ちなみにどうしてこちらに来ていただけたのですか? 自分で言うのもアレなんですが、あまりお客さんのような方が来ないものでして……」
「ああ、ふらりとしてたらここのタコ焼きを買ったっていう女の子に会ってな。それで教えてもらったんだよ」
「そうでしたか……あの、できればでよろしいのですが──」
「分かってるよ。俺も頼まれたからな、もし美味しいと思ったら広めてやってくれって」
ニカッと笑う男に感謝し、お土産用のタコ焼きもプレゼントして解放する。
そろそろ本格的に準備をしないと……間に合わなくなりそうだな。
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