虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
帰国祭り その02
「さて、何をするか考えないと」
まずはそこからである。
申請書を調べてみると、とりあえず何をするかぐらいは書いておかないとダメだと説明が記されていた。
それ以外はだいたい自由、祭りの最中に検閲が来ても受け入れられるような店なのであればオッケーなんだとか。
「『SEBAS』、こういう時ってどんな感じの店にすればいいと思う?」
《旦那様、一つだけその解にお答えする前に訊ねておきます。旦那様はナンバーワンであることとオンリーワンであること、どちらを目指して店を出すのでしょうか?》
「ん? ナンバーワンとオンリーワンかぁ」
要するに大衆受けのする店にするのか、特定の人種の者たちに受ける店にするのか……それを選べということなのだろう。
「なら、オンリーワンで。普通にやって無難な繁盛をするよりは、多少売れずとも一部のニーズに応えたい……というか、別に儲かりたいわけじゃないからな」
《畏まりました。では、一度祭りに参加する店の情報を調べて来ます。それらを精査し、旦那様にもっとも合ったオンリーワンな店をオススメしましょう》
「ああ、よろしく頼む」
どうやってか、などと野暮なことを言う必要はない。
ドローンが空を舞うこの国において、情報収集の術などいくらでも存在するのだから。
「なら、俺も自分の足で調べてみるかな?」
別に敵情視察というわけでもないし、そもそもまだ祭りは始まっていないので出店が立ち並んでいるわけでもない。
ただまあ──出店がいったいどうやって、そして誰が出すかぐらいは見当が付く。
現代の地球と異なり、保健所などが介入してくることもないのだから。
それでも安全面は確保され、客がそれを信じて訪れることができる存在──つまり実績がある店持ちの者が出した屋台となる。
「まあ要するに、店を巡ればそれだけで体験できるわけだ」
普段から家屋ではない場所で店を開いている者、何かしらの事情があるのかもしれないが、祭りであれば平時よりも収入が増える。
参加しないはずがないのだ。
たとえば食べ物であれば、その味のよさを刻み込めば何度でも祭りのたびに利益を得ることができるのだから。
「──というわけで、一本貰えるかい?」
「……どういうわけか知らねぇが、金さえくれるなら立派な客さ」
焼き串を一本貰い、金を支払う。
毎度! とビジネススマイルを浮かべて見送ってくれた店主の声で死にながら、ホカホカに湯気が出る串に頬張り肉を外す。
「さてさて、祭りはまだまだこれから……珍しさで勝負するか、それとも異様さで勝負するか。うーん……あとで任せるか」
思いのほか美味かった焼き串に感動し、真面目な思考をどこかへ放棄。
──うん、美味しいは正義だな。
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