虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

魔術開発依頼



 ネーミングセンスが思いのほかダサかった『騎士王』はともかく、全能の才を持つ者が使う防御魔術を手に入れた。

 その情報はすぐさま『SEBAS』に届けられ、最優先で解析される。
 それを鞘に組み込めば……さらに結界技術は向上するだろう。

「愚者の石が保存できる術式の数は三つ。今の俺にはそれが限界だったな」

「……だ、ダサい。私が……ダサい」

「お前はダサくない。センスがダサいんだ」

「そそ、そっ、そう、なのか……」

 なんだかこれまで出会った中で、もっともショックを受けている表情をしているな。
 本人としては、それがカッコイイ……というより普通だと認識していたのだろう。

「別にな、こっちの世界だとそれでもいいと思うんだ。だが、俺たちの世界だとお前のようなヤツを厨二病と言うんだ」

「ちゅ、『チュウニ病』……」

「これは不治の病でな。どんなポーションも薬も効かない。自分で治ったと思っても、ふとしたタイミングで再発するようなおそろしい病気だ」

「なんてことだ……ど、どうにかできないのか『生者』!」

「……すまない」

 治らないから不治だと言ったのに。
 とりあえず、『ガウェイン』さんたちと相談することを勧めて強引に話を終わらせる。

 このままだとずっと今日はその話題になってしまいそうだし、ずっとやっていると俺も再発……うっ、沈まれ、もう一人の俺よ!

「……どうした、『生者』」

「いや……なんでもない。それより、この石のことなんだが。頼みたいことがある」

「頼みたいことだと?」

「ああ、効果は弱くてもいいから作ってほしい魔術があるんだ。報酬は……これだ」

 パッチンと指を鳴らすと、屋台の店主が香ばしい匂い数本の焼き串を持ってくる。
 ゴクリと生唾を呑み込む音が、どこからともなく聞こえてきた。

「……さすがに私も、禁忌に触れる魔術の創造には協力できないぞ。いや、串の数が増えたら屈してしまうかも……」

「それでいいのか。まあ、串の数は増やしてもいいが、それは結果次第だな──ちなみにこんな感じの魔術がいい」

 そういって理想の魔術について説明を行うと、少々渋めの表情を浮かべる『騎士王』。

「……可能だが、それは必要なのか? 私に遠慮しているのであれば、もう少し強力な魔術にしてくれても構わないが」

「いやいや、そういうことじゃないからな。俺にとって意味のある魔術になるんだ」

「そうか……なら、少し待ってくれ。これを食べている間に開発しよう」

「早ッ! 本当、才能って有るヤツの場所にはトコトン載せられているよな」

 結局、『騎士王』は本当に焼き串を食べている間に魔術を開発して愚者の石に籠めてから帰っていった。

 これを使えば、俺も三つだけだが魔術が使えるようになる──あっ、やっぱりそれも名前のセンスがアレだったぞ。


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