虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
守護者任命法
アイプスル
真・世界樹の麓には、この世界を守護する一匹の獣が……なんてカッコイイ感じに説明しても、その獣の正体がウサギであることを誤魔化すことはできない。
風を操るそのウサギは、今日も今日とて自身のために築かれた社の傍で世界を見守る。
「──みたいな感じでどうだ?」
『どうだ、と言われてもな……人の感性を問われても困る。それよりも先ほどの話の続きに戻ってほしいのだが』
「ああ、そうだったな」
ちょうど大森林の中での出来事を順繰りに説明し、中央区に侵入した辺りまで話した。
そこでなんとなく浮かんだ美辞麗句込みの風兎に関する説明を突っ込み、話が中座してしまったところだ。
「森獣も侵略されて、仔犬っぽい個体が門番代わりにされていた……心当たりって風兎にあるのか?」
『…………いや、無いな。おそらくは私よりもあとに森獣となった個体だろう』
「なら、森獣ってどういう風になるんだ? やっぱり聖獣が関係するのか」
『いや。それは場合によるな』
風兎は悩むようにキュウッと小さく鳴き、それからその説明をしてくれる。
『まずお前の予想通り、聖獣様の力があれば森獣へ昇華することができる。だが、それだけが森獣へ達する唯一の方法ではない。その個体が信仰を浴びる、森を支配する……などと、手段はいくらでもある』
「それはどっちが正規の方法なんだ?」
『そのすべてが正当な方法だ。そもそも名の通り森の獣、その守護領域はとても狭い。条件を満たすことさえできれば、森の民すべてに機会が与えられるのだ』
「つまり、風兎以外にもこの世界の守護をする存在ができると?」
それならば、ぜひ海を守護してほしい。
原初の海洋系を再現した海の中、魔力の力によって早回しでできあがったそれは──すでに現代と同じ辺りまで進化を終えている。
まあ、それにプラスしてファンタジーな存在もいっしょに生まれているのだが……それも含め、『SEBAS』に任せている現状を解決するいい方法だろう。
『可能ではあるが、一定以上の存在の格──つまりレベルだな。他にもそれなりの知性が必要となり、何よりも一つだけ外せない条件があるのだ』
「……そんなのあったのか。それで、いったいどういうものなんだ?」
『──まあ、お前なら一瞬なんだがな。上位の存在による加護、聖獣様の加護もそれに該当するのだが……最上位の加護として、獣神様の加護が存在する』
「ああ、うん……それなら有るしな」
とっくに話していたので、風兎もそういう風に話を進めたのだろう。
つまり知性を宿した高レベルの魔物がいれば、それを守護者に仕立て上げることができるわけだ……うん、いずれやってみよう。
『いずれ卵も孵化する。それを守護獣とするのがよかろう』
「卵……あっ」
『まさか、忘れていたとは言わせないぞ』
「……あ、あはははっ!」
ずいぶんと前のことだ。
当千の試練の報酬として得た──守護獣の卵なんてアイテムがあった。
たぶん、予め獣神の加護が掛かっている便利なアイテムなんだろう。
『……まあ、思いの外時間が掛かりそうだ。細かな地域を守護する者たちを見つけだすのもよかろう』
「そ、そうだよな」
『忘れるのはやはり問題だがな』
「す、すみません……」
一度、『SEBAS』に纏めてもらった方がいいかもしれない。
俺がいったい何をしてきたのか、またどういったアイテムを持っているのかを。
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