虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

大森林 その14



 N6W4

 その座標が何を意味するのか、頭のいい者であろうとなかろうと察するだろう。

 ──あっ、見つからなかったんだ……と。

 思い返せば俺のステータス、リアルでカンストしているルリとは異なり0の運勢LUCを嘆くべきだった。
 0が何を意味するのか、運が悪くなるのかそれとも……異なるナニカが起こるのか。

「実際、そこんとこどうなっているんだ?」

《旦那様。まずこのステータスシステムにおいて、LUCの値──プレイヤー以外は必ず1以上となっております》

「ふんふん、つまり0はプレイヤーだけの特権だと。羨ましい限りだよこんちくしょう」

《──いいえ。初期設定において、必ずすべての値に1以上の割り振りが要求されます。これはマイお嬢様が初期ステータスを極振りにした際、把握できていたかと》

 ……そういえば、たしかにそうだったな。
 つまり、本来『LUC:0』なんて能力値はありえないというわけか。

「いや、ちょっと待て。たしか、マイナス補正があるはずだろ? 不幸系のスキルでもあれば、俺と同じ状態に……」

《旦那様……ステータスの低下は、特殊な能力などで無ければ1を下回りません。下回る場合、それは生活が危ういからです》

「あっ……あぁあああ……」

《つまり、能力値に0を持つ生物は旦那様以外に存在しておりません》

「あぁああああ……ハァ」

 別に発狂することでもないので、少し息を吸えば心も落ち着く。

 そういえば、逆にLUC特化になったはずなのに、物欲センサーに引っかかったのか全然アイテムがドロップしない……なんてこともあったっけ?

 ──もちろん、ルリは一発だったけど。

「『SEBAS』、ここまでの逃走で策は見つかったか?」

《はい。結界を突破する方法も見つけましたので、中央区画へ向かうことも可能です》

「ようやくか……さすがは聖獣の結界だったということか。もちろん、それを解析して突破した『SEBAS』の方が優秀だけど」

《お褒めに与り光栄至極にございます》

 あっ、少し増えた。
 もしかしたら、『SEBAS』なりの喜びの表現だったのかもしれないな。

 なんて、我が子の成長に感動を覚えながらも……最後の区画を目指し、再び動き出す。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 N7W5

 これまでの区画と異なり、聖獣が直接管理する中央のフィールド。
 そこはとても自然豊かで、生物たちの憩いの場……だったのだろう。

「やっぱりそうなっていたか……」

《旦那様、反応がございました》

「最初から中にやっていたってことか。座標から何かやったのか?」

 ゲームでも、そうして直接座標を指定して移動することで、本来行くことができない場所へ向かえる……なんて小ネタがあった。

 侵略者たちの生存本能による侵略は、このような奇跡的な現象によって可能となっていたのだろう。

 ──つまり、本来誰も入ることができない場所へ、もっとも入ってはいけない存在が居たというわけだ。


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