虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

大森林 その12



 鹿をどうにかしようと思っていたが、そのアイデアは捨てて逃走を行う。

 いったんどうにかして、道案内でもさせようと思ったが……ドローンが居ればどうにかなるので、放置しておくことにする。

「というか、その方がいいんだよな?」

《はい。ダメージを与えれば、その分森獣の抵抗力を落としてしまいます。こちらでポーションを施しておりますので、旦那様はそのまま門の捜索を行ってください》

「そういうことか。了解だ──【野生王】」

 スイッチを切り替えるように、体の動きを急激に変化させた。
 これまでの戦闘では一度も使っていなかった、ヤー君の動きを結界を用いて再現する。

 自然の中で動けるように補正が施されているため、かつて見たヤー君のそれを演じることで同様の動きを可能とした。

 ……そりゃあもう、嫌がられるほどにデータを取ったからな。

「まあ、その分お礼を用意してくれたらやってくれたけどさ」

 駆ける、駈ける、翔ける。
 森の中を自在に走り抜け、追いかけてくる侵略者入りの魔物を振り切っていく。

 相手は狂い肉体の制御が外れている奴ら、そのため速度も尋常ではない。

「だからこその、これなんだよな。普段は、あんまり使わないけど」

 ヤー君は子供なので、大人の肉体で再現しようとすれば……方法は二つだ。
 肉体の方を合わせるか、再現する動きを肉体に合わせるかである。

「そして、俺は前者を選んだ」

 もちろん、愚行だ。
 だが【野生王】の最適な振る舞いを行うためには、俺の体に合わせた動きを取るよりもそちらの方が都合が良かった。

 そのため、俺の体は痛覚を外していなければ常時絶叫を上げるような姿になっている。
 なんせ、子供と同じサイズまで肉体を押し込んでいるんだからな。

 体も脳でイメージした進路へ向かえるようにしているだけで、自分で何かをできるようにしているわけでもない。

 より早く、一歩でも速く先へ進むため、人間性すら捨てた俺は──まさに獣だった。

「なんてな。けど、違和感があるからな。そのうち子供になる薬とか作ってみるか」

《それでしたら旦那様。かつて『錬金王』の手記からそれに類似した物を見つけました》

「マジか。凄いなファンタジー」

 まさか本当に実在するとはな。
 まあ、錬金術は不老不死に至るモノなんだし、肉体の老化をどうにかするのも必要な技術なのかもしれない。

「──って、そろそろ次の区画か?」

《はい。『N7W6』となります》

「一周する前に、見つけておきたいな」

 最悪、本当にそうなってしまうからな。
 さて、どこに行けば見つかるんだか?


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