虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

大森林 その02



 ペシャンコになった魔物の素材を捌く。
 価値は落ちてしまった部位が多いモノの、それ以上に元から売値が高く評価されているような物ばかりらしい。

「わざわざすまないな。結界の方はどうなっているんだ?」

《解析完了しました。既存の情報を基に、現在改竄可能なコードを探しています》

「……頑張ってくれ」

《承知しております》

 俺には分からないが、この世界の魔法やスキルはHPやMPが測れるようにシステムに則ったうえで機能している。

 そのためか、一種のプログラムとして自在に操れるんだとか。

「それができるなら、そもそもスキルがある必要性って……」

 識別用のコードがあり、改竄しすぎるとエラーが発生するとか言われたっけ?

 なので既存のスキルに応用性を与えるのが今の限界で、別の場所から要素を取り込むことで強化している。

「とりあえず、終了っと──ああー、力が抜けてくー」

 素材の解体という生産作業が終了し、発動していた:DIY:の全能感が消え去った。
 その全能感、それに中毒性を覚えてしまったらきっと人としてナニカを失うのだろう。

 能力値が無限であることによるその感覚、だがそれは生産を行うためだけに与えられた仮初のもの。

 故にそれは失われるのだが、だからこそ求めてしまう……そうなってしまうとダメだ。

「──さて、さっさと行くか」

 そう自覚しているのだが、俺はそもそもその力に執着していないので関係ないだろう。

 オンゲーでも、痒い所に手が届かない……みたいなことが多々あったので、その延長線にある全能感もあまり欲しいとは思えない。

「……死亡レーダーはまだまだ反応していないし、今の内に状況を把握しておくか」

 この大森林の魔物は、本来ここまで強くないだろう。
 陳情書に記されていたナニカが、魔物の狂化に関わっている可能性が高い。

「それ自体の反応は見つかっていない。狂化させるという仮説が正しいなら、間違いなく殺気を放っているはずだから特定ができると思っていたんだがな」

 そうなると、広大な森のどこかに居るから見つけられないという可能性が高い。
 具体的には、区画を隔てているためいっさい感知できないとかだな。

「けどまあ、こういうのって創作物だとテンプレだからな……うん、どうせ中央に行こうとしているだろう」

 狂わせる能力があるならば、もっとも強大な存在を狂わせるに決まっている。
 そしてこの森の中で、最強の存在──答えは一つしか無い。

「苦戦する魔物を相手に、最奥地へ向かう。うん、物凄く冒険っぽい!」

 冷めやらぬ興奮を抱き、北を目指し歩を勧めていく。

 そして、都合よくいかないのが主人公ではないモブの定め──逃げ惑い、殺されるのはある意味運命とも言えるだろう。


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