虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

覇獸 その04



 再び玉座の間に……なんて面倒なことはする気が無いのは、同じ考え。
 ポケットから取りだしたポーションを、倒れ込んだ『覇獸』に差しだす。

「私が代表をする商会の自信作です。よければぜひ、飲んでください」

「……ああ、頂こう」

 すでに蓋を開けていたので、拒否するわけにもいかない。

 それは臭いから毒が無いかを証明するためでもあるので、大人しく『覇獸』は受け取りグイッと飲み干す。

「──っ! 早い……」

「『錬金王』さんと提携しておりますので。効能は折り紙付きですよ?」

「あのお方か……もしや、呪いを解くことに協力した人物とは『生者』なのか?」

「現『錬金王』ともそのご縁です。私には、専門的なことはさっぱりなので分からないことが多かったですが、それでも何かしらお役に立てたようで……このような関係を結べました。いやはや、運がいいです」

 誰の、とは言わないけどさ。
 それに運にも種類があるし、そもそも俺と現『錬金王』ユリルとの出会いは沼地でカエルとの戦闘……なんて感じだしな。

「……勝てないわけだ。『生者』、お前がこれまでに結んだ縁は脅威だ。『騎士王』が聖剣の扱い方を教えるとは、誰も想定していなかっただろう」

「いえいえ、あれは我流ですよ。確認してもらっても構いませんが、私は『騎士王』さんに剣術を教わったことはありません。あくまでアレは、自分に意識されるための強烈な暗示のようなものです」

「……そうか」

 何かを確認するような『覇獸』。
 だがまあ、それが分かることはない。

「申し訳ありませんが、どれだけ探ろうと心音は一定ですよ」

「気づいていたのか」

「私の世界では、鋭い五感を持つ者がそれを生かして嘘を見抜く……といった話があったと文献に記されているのですよ」

「そういった手札を簡単に開示できる世界なのか。やれやれ、その星はどれだけ高度な情報戦が行われているのやら」

 電脳世界で奪い合ったり、揚げ足を取ったりするような場所だ。
 ただの会社員であろうと、後者は必須スキルになってしまうような国家なので、本当に申し訳なく思っている。

 などとやり取りをしていると、【獣王】がこちらへやって来た。

「二人とも、お疲れさん。どうだい、それぞれ殺り合った感想は?」

「まさに死に物狂いでしたよ。これまで隠していた手札を、一気に開示させられました」
「ふ、ふんっ! ま、まあ、たまに顔を合わせるぐらいは、許さんこともないな」

「アンタもそろそろ諦めな。それに、まだ誰も会ったことないから……あの子だけだよ」

「くっ、仕方あるまい」

 とても不安が残る会話だ。
 あの子、というのはヤー君のことなんだろうけど……誰もって、いったい他のことは誰のことなんだろう?


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