虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

覇獸 その01



「──私が『覇獸』だ。『生者』とやら、よくもまあ、ここに来やがった……痛ッ!」

「あー、うちのコレが本当にすまんねぇ」

「な、何をするか我が妻よ! ここは娘たちの父として、威厳というモノを──」

「いろいろとあんだよ、そもそも独断だからまだ何にも知らなかったってのに……」

 玉座を並べ、話し合うウサ耳じゅうおうトラ耳はじゅう
 前に一度来たときは、一つしか無かったのだが……夫と妻、どちらが居るかで用意される玉座に変化が在るのかもな。

「挨拶をしてもよろしいでしょうか? すでに知っているとは思われますが──『生者』こそが、私に与えられた名。どうぞ、気楽に『生者』とお呼びください」

「……ツクル、じゃなくていいのか? それぐらい、こっちでも調べはついているぞ」

「どちらでも構いませんよ。特段隠しているわけではありませんし、今の『覇獸』様であればこちらの方がよろしいと思っての──」

「今の、だと? まさか、この先はもっと気楽にお義父さんと呼ぶ気では──ゴフッ!」

 再び暴れようとする『覇獸おっと』を、殴り飛ばして沈める甲斐甲斐しい【獣王つま】。
 なお、誰もこの状況にツッコまない……臣下の皆さんも鍛えられているようだ。

 さて、話が一段落着いた頃。
 部屋の扉が勢いよく開かれ、何者かがこの場に現れた。

「せーじゃ!」

「おや、ヤー君ですか。お久しぶりです」

「うん、久しぶりだ!」

 それはかつて、この国へ導いてくれた少年であった。
 とても楽しそうな笑みを浮かべ、こちらへ駆け寄ってくる。

「どーしてここに居るの?」

「なんとなく立ち寄ったところ、【獣王】様の使いに呼ばれまして……書類仕事を手伝ったりしていました」

「おー、それはお疲れだな。うむ、ならおれも手伝おう!」

「ふふっ、気にしなくても構いませんよ。すでにお仕事は終わりました」

 流れでつい頭を撫でてしまったが、嬉しそうに近づき、すり寄ってくれる【野生王】。

 それはとてもありがたいのだが──玉座の一つから、複雑な感情が入り混じった視線が届けられる。

「よくも……、よくも…………」

「あー、こりゃあもうダメだな」

「よくも我が息子を! そんな羨ま……もとい怪しからんことをしおって。私だって、まだしたことないのに!」

「……えっ?」

 その大半が嫉妬系だ。
 だが、この反応を【獣王】はダメだと言っている……いったいどういうことだ?

「決闘だ! 決闘を以って、お前のすべてを見させてもらうぞ!」

「……えー」

 また、戦わなければならないのか……夫婦揃って、同じことをするよな。


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