虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
天馬馬車
N5W5 アニスト
草原のど真ん中にある巨大な都。
怪しまれないよう、あえて再び入国審査を行ってから堂々と入国……したのが不味かったのかもしれない。
「──【獣王】様より、お呼び出しがございます。王城まで、着いてきていただけないでしょうか?」
「あっ、はい」
「助かります……ええ、本当に」
なんだか拳を強く握る兵士さん。
いや、いったいアレから何があったというのか……王城に行ってはいけない感が満載だが、何かがあるということもまた事実。
──とても興味がある。
「先に使いの者を向かわせましたので、どうぞごゆっくり。王城の方から、移動手段を手配するでしょう」
「……そこまでですか?」
「うわさに聞く限り、『超越者』であらせられる貴方さまが居たからこそ、我々は救われたのかもしれません。パレードは行えませんが、それでも最高級の馬車で王城まで送らせていただきます」
「あ、あまり派手な演出は控えていただきたいのですが──」
パカラッパカラッと、どこからともなく馬が地面を蹴る音がする。
当然、死亡レーダーでそれを確認していたからこそ、そう伝えたのだが……皆が皆、俺の謙虚さと勘違いしていたようだな。
「到着したようです。では、さっそくお乗りください。この──天馬馬車へ」
「……目立ちたく、ないのですが」
「ご安心を。これは王族でなくとも使っていますので」
「そういうことではなく、見た目のインパクトに関してですね……」
少なくとも俺にとって、空を翔ける馬二頭が引く乗り物は普通ではない。
操縦しているのは騎士だし、周りでは何があったのかと調べている様子が見て取れる。
完全に目立ってしまっていた。
この中へ堂々と入っていくような勇気はない……が、だからといって別の手段を取るというのも負けた気分になるな。
「では、向かいましょう」
「分かりました」
なので『SEBAS』に指で指示を送り、周りから俺の姿が見えないようにしてもらっておく。
相手は五感の鋭い獣人族なので、完全に偽装はできないけどな。
「中も凄いですね。外の装飾である程度把握しておりましたが、なるほどたしかに人気が出そうですね」
「貴族たちの中でも、この天馬馬車サービスは高評価なのですよ? 空から見下ろす行為そのもの、天馬との触れあい、そして王族と同じ行為ができるという観点などから人気を得ております」
「分かります。とても貴重な経験を得ることができますからね」
そんな会話をしていると、馬車はゆっくりと前へ進み……上へ登っていく。
そして宙を蹴って少しずつ、王城へ続く空の道を闊歩していった。
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