虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

手術



 奴隷、ということで何かしらの引き金トリガーを引いてしまったのかもしれない……ルリからお呼び出しが来てしまった。

 それ自体はとても嬉しいのだが、そこには俺の奴隷(仮)が居るのだ

「お久しぶりですね、大事ありませんか?」

「は、はい。何事もありませんでした」

「ではさっそく、教祖様の下へご案内してもらいますよ」

「……畏まりました」

 女騎士──たしかフィーヌが、とぼとぼとルリの部屋へ歩き出す……と思ったが、なぜか前に向かった最短距離のルートとは少し異なる道だ。

「すぐには行かないのですか?」

「……部屋でお待ちになりますか?」

「ああ、そういうことでしたか。できるのであれば、陰ながら普段の妻がどのようにしているのか見てみたいので、ぜひそのまま一般の席へ案内してくださいませんか?」

「分かりました」

 しかしまあ、ずいぶんと従順になったな。
 ルリとあのくっころさんが何かしたのか、それとも彼女自身に変化が及んだか……いずれにせよ、謎でしかない。

「ところで、教祖様は何を?」

「人々をお癒しになっております。教祖様で無ければ治せないものが多く……どうしてもその御業を使わねばなりません」

「そうでしたか……」

 ルリには大量に蘇生薬と万能薬を渡してあるので、その気になればどんな傷や状態異常であろうと治すことができる。

 呪いは一部例外だが……それこそルリであれば、すぐに解呪することができるだろう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 案内された先は礼拝堂だ。
 フィーヌには離れてもらったうえで、設置された椅子に座って様子を眺める。

 俺と同じように座って祈る者に加え、前に進み出て癒してもらう者などが居た。

「本当、女神様みたいだな」

 彼らが崇拝するのはルリ当人だ。
 スタンドグラス越しに射す後光によって、その神性さはより増している。

 だが当人が女神のような神聖さを最初から持っているので、それはただの補助だ。
 ルリがさっと手を振るうだけで、人々の傷は癒えて状態異常が解消されていく。

 それがただの状態異常ではなく病気であることが判明した場合、提携先の医者が紹介されているらしい。

「そう、病気とかは一時的に治ってもすぐに再発するんだよな……」

 前にルリに訊いたら、何でも治すのはさすがにできないんだとか。

 病気は特に肉体内の問題で、治せるものと治せないモノがある……癌とかはいちおう最上級のヤツポーションで治せるんだけどさ。
 手術が必要な病気には、ちゃんとそういう処理をしなければ治せないんだとか。

 なのでこの世界には医療系のスキルが存在し、手術という概念が存在している……ツッコミたいが、ツッコみ方が分からないな。

「……手術っていっても、雑なのは切除して再生させるだけだけどさ」

 そういう部分はファンタジーな技術を用いてのやり方だ。
 さすがに地球のように、さまざまな機械を使うような手術の方法は知られていない。

 ──今はまだ、だけど。


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