虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

旋極会 後篇



「貴殿が『生者』であったか。妾こそがこの領域の主──【奴隷王】である」

「王、なのですか?」

「そうであるが……何か問題でも?」

「いえ、てっきり姫なのかと……」

 とまあ、会話で分かるように、俺の目の前に居る【奴隷王】は少女だ。

 あくまで見た目が、という限定されたモノではあるが、少なくとも王という性別では無いと思う。

「職業に文句を言うでない。わざわざ姫という名に変更するほど、奴隷の主とは特異な職業ではないということだ」

「なるほど、そういうことでしたか」

 たしかに、【魔王】にいちいち姫とか付かなさそうだし……男女で異なる印象を与えるかどうか、などが関係しているのかも。

 ただ、名前が違っても能力は同じだし、上限なども共有されているらしい。

「それで、汝は何故にこの地を訪れた?」

「ご挨拶ととあるアイテムの宣伝を。最近、地上で流行りの品でございます」

「うむ──受け取ってまいれ」

 侍らせた少女の一人がこちらへ来て、俺の差しだしたアイテムを受け取り【奴隷王】の下へ届ける。

 それが何なのかすぐに察した彼女は、手に取ったそれを弄び始めた。

「ふむ、光線銃というヤツじゃな。わざわざこれを持ち込んだ理由は?」

「奴隷たちの育成に使えるかと思いまして。必ず一定以上のダメージを発生させるので、一度撃たせたうえで他の者が敵を倒せば、それだけで経験値が入るようになります」

「なるほど、戦力増強に使えるわけか……よい手土産であるぞ」

「そう言っていただき、幸いでございます」

 最近売り始めたアップデートパッチを使うと、属性付きの光線が放てるようになり、使い続ければ属性に関するスキルが習得しやすくなる……という仕掛けを施した。

 誰も再現できないブラックボックスに関わる技術なので、利益は単独で総取り……その一部を生産ギルドに回せば大抵のことは多めに見てもらえるので、やりたい放題で大儲けしているぞ。

「して、いくつほど持ち込んだ?」

「そうですね、無料でとなるとだいたい十丁ほどです。しかし、大量に購入していただけるのであれば、お安くしておきますよ」

「そうじゃなぁ……では、二百丁ほど買わせてもらおうか」

「お買い上げ、ありがとうございます」

 すぐに値段を計算し、それを紙に記したうえでメモを奴隷に渡してもらう。
 メモを【奴隷王】が見ている間に、瞬時に大量の光線銃を並べておく。

「! それほどの用意ができておるのか」

「お得意様との交渉の機会は、決して見逃してはいけませんので。求められればそれをすぐに提供する。それが商人として、まず信頼される条件ですよ」

 まあ、だからといって信用されるわけじゃない……問題はここからである。


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