虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
悪鬼の巣 その04
迷宮のボス『大鬼帝』が、殺意剥き出しの視線でこちらを睨みつけている。
だがまあ、それだけで本来は死んでいるんだからそこまで危険人物じゃないんだよな。
『そもそも、何者なんだキサマは!』
「申し遅れましたね。私はツクル、普人族に属し迷宮を冒険をしている者でございます」
『冒険者か……』
嘘は言っていない。
冒険をしている者ではあるが、職業や加盟しているギルドが【冒険者】や冒険ギルドだなんて言っていないのだから。
『冒険者とは徒党を組む者だろう? 何ゆえにキサマは単独でここに現れた』
「居るんですよ。時には群れを成すより、単独で居る方が動きやすいという者が。かく言う私もそういったタイプでして……騒動を止めるため、この場に馳せ参じました」
『つまりこのオレを止めるわけだ──バカにするのも大概にしろ!』
たしかについに現れたのが雑魚一匹だったのであれば、迷宮の主はキレるだろう。
途中で追い返せたならまだしも、逆に全滅させられたうえに自分で直接見ても雑魚にしか見えなかったわけだし。
「コホン……いちいち敬語を使うのも飽きたしもう止めだ。これから死ぬ奴に使っても意味なんてねぇや」
『──死ね!』
一瞬で玉座から動いた大鬼帝は、即座に俺の首を刎ねて戦いを終わらせる。
ポーンと宙を舞う俺の頭、観ていた配下たちはいっせいに盛り上がり……恐怖した。
首が粒子となって消えたかと思えば、その粒子がすべて元在った場所へ飛んでいき──再び首の形を形成したのだ。
俺も立場が逆だったら、ホラーものだろとちょっと引いていただろうし。
「ハァ、いきなり殺るのかよ。本当、知能が低い魔物ってのはダメだな」
『いったい何をした!』
「訊かれて答えるのはオウムだけだよ。死に逝くお前にわざわざ土産をやるほど、俺は暇じゃないんでね」
『くそっ──お前ら、コイツを殺せ!』
配下がいっせいに迫ってくる。
その間に俺の死に戻りを解析し、何か対策でも立てるつもりなのだろう。
「──発射」
だが、そうは問屋が卸さない。
展開していたドローン包囲網から発射された弾丸の雨は、即座に俺に近づく不届き者たちを排除していく。
とっさに防げた個体はごくわずか。
たった一回の誤った選択で、大鬼帝は多くの配下を失ってしまったわけだ。
「やれやれ、おそろしいのは数の暴力じゃなくてそれを使いこなせない無能の方か……これじゃあコイツらも報われないな」
『殺せ! ソイツをすぐに殺すんだ!』
「まあ、安心しろって……すぐにお前も同じ場所に送ってやるからさ」
冷静さを失った今の大鬼帝ならば、どうにか倒すことができるだろう。
──大切なのは、いかに自分の戦いやすい環境に相手を誘い込むか、だな。
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