虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

遠談の水晶



 果物の入った皿を定期的に空っぽにしていく魔物たち。
 彼らに追加で果物を盛りながら、この地の守護獣である小蜘蛛と話を続ける。

「あの町と契約をしているのでしたね?」

『そうよ。もともとはあの町を築いた初代との契約だったんだけど、それを続けたいと二代目が言ってきたから続けているの』

 当然、守護獣である小蜘蛛の方が上位にある契約なのだろう。

 あちらは素材を求めている分、契約を破棄するような行動はとれないだろうが……その気になれば小蜘蛛はいつでも止められると。

「具体的にどういった契約を?」

『細かいことは言えないけど……簡単に言えば、危害を加えないこと』

「そして、一定量の糧ですか?」

『そうね。素材だってただで提供できるわけじゃないんだから、相応の礼が必要よ』

 住民たちが時々やっているのだが、素材を自分から用意するなら何かを消費しないと生成できない。
 体力や魔力、精神力……そして満腹度だったりと、種類はさまざまだが。

 ──しかし、利点は存在する。

 まず本体が死なないで手に入る素材なら何度も入手可能である点、そしてただ討伐してドロップさせるよりも高品質の素材が得られることだ。

 布の町として知られているあの町は、その質を維持するためにも契約を続けなければいけないわけだな。

「ならば、私個人との契約も結んでもらうことは可能ですか?」

『あなたと? 普通ならお断りしておくのが義理なんでしょうけど……聞くだけ聞くわ』

「先にこちらが提供するものを伝えておきましょう……そうですね、つい先日採取に成功した、こちらの枝なんてどうでしょう?」

『──ッ!』

 話の流れから察していただろうが、俺が取りだしたのはただの木の枝じゃない。
 風兎といっしょに採取を試みた──真・世界樹から切り落とした、葉が付いた枝だ。

「これを条件に、あなたにも真・世界樹の管理をお任せしたいのですが……それは無理そうですね」

『……ええ、それはできないわ。たとえその枝が条件だとしても、守護獣たるもの守るべきものをしっかりと守り抜く』

「ですので──こちらを」

 取りだすのは水晶、魔道具化してあるのでちゃんと特別なことができる。
 つい先ほど、小蜘蛛サイズに調整したうえで機能が使えるようにした逸品だ。

「これは『遠談の水晶』です。この水晶を使い、時折対となる水晶から尋ねる情報に嘘偽りなく答えていただくこと……それを条件にするのはどうでしょう?」

『どこに繋がっているの?』

「真・世界樹が在る地……と答えれば宜しいでしょうか? もちろん、それが分からないように仕掛けは施させていただいてはおりますけど」

 アイプスルに関する情報は、極力外部へ漏らしたくはない。
 しかし、『SEBAS』越しにある情報が来たのでこういった作戦を取っている。

『あなたが質問をしてくるの?』

「いえ、基本的には風兎が行うことになるでしょう。もちろん、あなたから掛けることも可能ですので……意図はお分かりですか?」

『そういうことね……分かったわ』

 水晶を受け取る小蜘蛛。
 これで真・世界樹に関する質問や、獣神様に関する情報を風兎が知ることができるな。


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