虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

小蜘蛛



 W9

 俺自身が情報収集に出ることはない。
 普段ならタクマに訊いているが、さすがに話題が『超越者』関連となれば控える。

 かなり前のことだが、『闘仙』が現れたせいで情報は漏れているだろうけど。

「──なので、もう少し冒険をしてみる」

 布の町『エウスト』からさらに西へ。
 森を歩いていると、比較的温厚な魔物たちが俺の様子を窺っている。

「うんうん、全然攻撃してこない……なんだか新鮮な気分だ」

 町の長と契約をしているとかなんとかで、布に関するアイテムをドロップする魔物たちは通行者を襲うことがない。

 そして、何かをくれたものには相応の礼を与えてくれるんだとか。

「というわけで──住民たちも絶賛、アイプスル特製スペシャルフルーツ!」

『!?』

「なんと二十種類のフルーツが……って、物凄く来た!」

 魔物ならバレないだろうと、アイプスル特産の品々を盛り合わせた特別な一品だったのだが……さながらレイドイベントに現れる手下軍団のような勢いで、魔物たちがいっせいにこの場へ馳せ参じる。

「なんだなんだ何なんだ!?」

『それはあなたのせいね……この子たち、美味しそうなその食べ物に釣られてきちゃったのよ。もちろん、私もね』

「それは悪いことを……だ、誰ですか!?」

 森の奥から届いた思念によるメッセージ。
 その方向から来る死の警告音を探ると、その正体は──小蜘蛛だった。

 どうしていつも、こう……小動物というか小さな存在が森の中で一番強いのだろうか?

「えっと……どちら様でしょうか?」

『あなた、クローチルの契約者ね?』

「クローチル? ……えっと、風兎のことでしょうか?」

『そう。わたしはその同僚、名前はまだ言えないから……そうね、小蜘蛛さんで良いわ』

 そんな(自称)小蜘蛛さんは、その大きさ一寸ほどのサイズである。
 ただし、内に秘めたエネルギーはこの場に居るどの魔物よりも強大だ。

『最近、クローチルとの連絡が付かないって話で持ち切りなんだけど……あなたが契約しているってことは、まだ生きているのね?』

「はい。ただ、少々扱いに困るものを管理してもらっています」

『扱いに困るもの?』

「ええ……少し待ってください、この子たち全員に行き渡る分のフルーツを追加で用意しますので」

 了承してくれたので、ある程度量を用意したうえで皿にフルーツを盛っていく。

 先ほどまでは用意した一つ分を取り合っていたが、これによって全員がとりあえずは食べられている。

「お待たせしました。えっと、どこまで話しましたっけ?」

『扱いに困るものを、クローチルに任せているって話までよ』

「そうでした──端的に申せば、真・世界樹の管理をお願いしています」

『真・世界樹ですって!?』

 毎回こういう感じになるのかな?
 前回、そして今回の驚きぶりからそんな風に思うのだった。


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