虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
理外の勝者
アイプスル
『──それで、結局放置してきたと』
「いや、別に放っておくわけじゃないぞ。盗人対策ぐらいしてきた」
『それはそれで、盗人が可哀想に思える目に遭うのだろうな』
ずいぶんと大きくなり、本当に宇宙まで届きそうだと思えるほど伸びた世界樹の麓。
俺は風兎に、今回あったことをすべて相談していた。
「『超越者』だからな、何があの娘を狙っているか確証が持てたわけじゃない。そもそも雪の妖精だからって、あそこに居るのはさすがに異常だしな」
『侵雪を私はよく分からないからな。だが、たしかにそういった苛酷な環境に、精霊や妖精が住むとは思えないな』
「だろ? だから疑問だったんだ……まあ、そこは『SEBAS』に任せている。何があるかもう少し詳細が分かってから、アレをどうするか改めて考えてみるつもりだ」
神やら運営やら、『SEBAS』でもなければ出し抜くことは不可能だろう。
運営は世界の管理に『SEBAS』と同等かそれ以上のAIを用いているし、凡人がどうにかできることでもない。
少しずつ成長している『SEBAS』ではあるが、サーバーは結局開発元であるイーデのものなので、『SEBAS』がそのAIと対等に戦うことは難しいと思う。
「理の中で抜け道を探す者は、逸脱した者たちに決して勝てない……」
『ふむ、誰の言葉だ?』
「……誰だったかな? だが、『超越者』を見ているとたしかにそうだと思うよ。アイツらに勝とうと、張り合おうとするなら、必ず何かを逸脱する必要がありそうだ」
『なるほどな。『超越者』本人が語るのだから、たしかにその通りだろう』
どれだけ凄腕のゲーマーだって、最初から必勝の手を持っている素人には敵わない。
なにせ、それはもう勝負では無い──ただの結果を導くための過程である。
「だいたい、『騎士王』に勝つ未来なんて一度も見えたことがない。アレって、もう何をしても勝てないよな?」
『……あの権能は文字通り『万能』だ。彼の者を慕う者が居る限り、決して理の中で滅されることはない』
「だからこそ、背くのか……初代『騎士王』は殺されたのか?」
『そうらしいな。だが、それがどうした』
特にどうしようもないんだがな。
地球だと殺されているわけで、ただその事実確認がしたかっただけだ。
まあ、気になることもいちおうあるけど。
「俺の世界だと、鞘を失ったりして完璧じゃなくなった『騎士王』は、『モードレット』に殺されて死んだってことになっているんだが……この世界だとどうなんだろうなって」
『殺された、としか伝わっていない。そう簡単に国の恥を晒すわけがなかろう』
訊いてみれば、教えてもらえるかもしれないが……親しき者にも礼儀あり、やっぱりいずれ自分で解き明かすべきだな。
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