虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

眠る妖精



 さすがに雪だけが防衛システムというわけではなかったようで、しっかりとした守衛などが配置されていた。

 まあ、しっかりとした……と言っても、それは雪像としては、という意味なんだがな。

「魔物……なのか?」

《いいえ、内部に魔石が入っていない影響ですね。この雪像はあくまで雪でできた像でしかないと認識されているようです》

「雪まつりに出したら、間違いなく一、二を争う名作だしな」

《解析は済んでおります。雪そのものに特殊な技術は関わっておりませんが、『超越者』によってなんらかの強化が行われています》

 魔力ではなく、仙丹に似た自然エネルギーた『超越者』がこの先には居るのか……。

「それじゃあ、そろそろ行くか。場所はこの先で合っているんだろうな?」

《はい。間違いありません》

「ならばよし──謁見の時間だ」

 雪でできた扉を、結界使ってこじ開け──着地してから中へ入っていく。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 どの強者も、自身が座する間にはそれなりに気を使っているように思えた。
 やはり座った椅子から眺める光景が、殺風景ではつまらないからだろう。

 そんな玉座の間っぽい広い場所に、その者は君臨していた。
 雪でできた絨毯の両端には無数の騎士、魔法使い、司祭が待ち構えている。

「……幻想的だな」

《そうですね》

「だが、いろいろとツッコみたい──最初は反応が無かったんだよな?」

《はい。一度目に訪れた際、最奥に反応はございませんでした》

 つまり、俺が再びこの地を訪れるまでに支配を完了していたわけだ。
 だからこそ、それはおかしいのだとはっきり分かる──目の前の光景がその証拠。

「これは……眠っているんだよな」

 王座にあるのは氷だ。
 ただし、その中には小さな少女が入っており、瞳を閉じて眠っている。

 少女の大きさは幼女という意味ではなく、小人のように小さいということだ。
 背中に薄っすらと見える半透明な羽──おそらく種族は妖精か精霊だろう。

《解析および模倣完了──『白氷』、それが少女の『超越者』名です》

「氷か……水も雪も操れるって権能だったっけ? そこに妖精としての能力が合わさった結果が、この光景ってことか」

 二つの力、そしておそらく職業の効果も合わさった結果、一点特化の性能を手に入れた存在──それが眠っている少女なのだろう。

 しかし、そんな話と眠っていることにまったくと言っていいほど関連性が無い。

「氷の中で封印されたくないとは思っていたが……まさか、当の本人がそんな状態で待ち受けているとはな。というか、なら外の景色も含めた演出っていったい……」

 なんだか気が緩んでしまう。
 本当、何があったのやら……。


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