虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

白銀の世界



 真っ白な世界。
 地球において、そう称することができる場所はどれだけ存在するのだろうか。

 少なくとも今までの俺ならば、無数に存在すると答えられただろう。

「これが……白銀の世界かぁ」

 だれ、自然現象が生みだす白銀の世界を挙げるのならば、ゼロと答えることになる。
 それだけの光景が、俺の目の前に広がっているのだから。

「というか、光が射している……どういうことなんだ?」

《どうやら『超越者』が天候を操作している模様です。天への干渉、水分の支配……方法はいくつもございますので》

「魔法チート、なんてのもな」

 やり方は無数に存在する。
 実際、俺だって一時的な穴を空けることならば『ソルロン』を使うことで可能だ。

 しかし、おそらくこの光景は現在のN14にとって恒常的なものなのだろう。
 降り止んだ雪に陽光が反射し、銀色の光が辺り一面で煌めく──その様子は。

「バレてる、んだろうな?」

《おそらく。ですが、私どもが好戦的な態度でないことが功を奏しているのでしょう》

「侵入者であろうと、丁重な態度を迎え入れてくれるってか……ずいぶんと余裕があるんでござんすね」

《『超越者』といえど、人であることに変わりありません。その者は、そう戦いを好まないのかもしれませんね》

 そんな『超越者』、滅多に居ないと思うんだがな……まあ、居るには居るんだけど。
 思い返せば、好戦的じゃないヤツも意外と居たよな……『冥王』とか『錬金王』とか。

 ただ、現『錬金王』との出会いはカエルとの戦闘の真っただ中だったし、『冥王』は俺の呼び方が雑だったり……戦闘とは関係なく死と結びついていることは確実なんだよな。

「あっ、雪でマーキングって可能性もあるかもしれないな。この雪がずっと融けないのなら、それもだいぶ可能性に入りそうだ」

《雪を媒介としての支配ですか……旦那様の推測が正しいのであれば、トロッコで侵入しても動きが無いことに理由が付きます》

「洞窟内に雪が入ってこなかったから、ここの『超越者』も俺たちにはまだ気づけていない……いずれにせよ、奥に進むなら踏むしかないんだけどさ」

 空を飛ぶ、という選択肢もあるが……どうせ魔力が途中で尽きるし、雪のある座標を移動した時点でバレるようなシステムならば、そうせずともさっさと気づかれる。

「となると、先にドローン以外の方法で目的地に行けばいいか──『SEBAS』、これから言う情報でどうにかやってみてくれ」

《畏まりました》

 これまではできなかったが、今の俺ならば可能な手段がある。
 ──ようやく謁見の時だ。


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