虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

最北へ



 N11 地下坑道

 広い地下空間が存在する。
 指示した通り、『SEBAS』はここに異常なほど長い道を整えてくれた。

「しかも、レールまで完備している……これだけでも、現代チートなのだろうか?」

《機関のみを挙げれば、たしかにそうなるかもしれません。しかし、轍などの誕生から踏まえればこの世界でもすでに存在しうる可能性を秘めております》

「いや、まあ……そうなんだろうけどさ」

 馬車があれば、そもそもそれを進みやすくするように考えるだろう。

 ただでさえ、馬車以上に移動速度の速い乗り物が存在している──『機械皇』や神代技術があるのだから、レールもあるよな。

「それで、どこまで繋がっている?」

《旦那様が望む限り、北のすべてにこの空間が確保できました……しかし》

「しかし?」

《『超越者』の支配する領域を、完全に確認できました。『N14』、北の最奥に私ではどうにもできなかった場所がございました》

 やっぱり居たよ、北にも『超越者』が。 
 さすがに定住だとは思うんだが……住処を変えたとかで載ってなかったのか?

「その詳細は分かっているのか?」

《申し訳ありません。『超越者』を相手に下手な真似を行うわけにもいかず……支配領域であると確認した時点で、即時撤退を選択しました》

「いや、それは正しいだろうな。たぶん、支配をしているなら気づいているだろうし」

《旦那様、それでも向かわれますか?》

 これまでの『超越者』はなんやかんやあっても、そこまで俺に害を及ぼすことなくやり過ごすことができた。
 一番厄介そうな『陰陽師』でさえ、直接的な干渉はしていない。

 だがしかし、この先に居る『超越者』とはいっさいの面識を持たずに会う。

 それが何を意味するのか……これまでの経験だけで『超越者』を図っていては、確実に間違えることになる。

「行くさ、当然。なんのために、奥まで進ませたと思っている」

《……御武運を》

「ああ、祈っておいてくれや」

 レールが敷かれた地下空間。
 行き先は地獄、理から外れた『超越者』が支配する領域。

 停まることもできず、ただ一直線にそこへ向かっていく。

「……というか、N14の地下まで穴を追加で掘ったのか?」

《いえ、初めから存在した坑道と接続しました。可能な限り偽装工作を施しましたので、一度目の侵入はバレません》

「入った直後からが戦いか。相手が誰であろうと、逃げ切れるようにしないと……」

 最悪のケースが封印だ。
 特にここは最北の地──いかにも雪や氷が似合う環境である。

「氷漬けで封印なんて、いかにも定番すぎるだろう……」

 それだけは、絶対に避けなければ。


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