虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

おむすび



 始まりの街

 包丁は無事に届き、瑠璃から感謝された。
 突然送られてきた包丁のお蔭で、暗殺者から身を救われたんだとか……いや、いろいろとおかしいのだが、いつものことだったのでとりあえずスルーしておいたぞ。

 その影響なのか、神殿の権威が弱まり代わりにルリの教団の勢力が増した。

 いつの間にか起きているそんな宗教戦争はさておき、俺はいつものように『騎士王』と顔を合わせて焼き串を食べている。

「倭島から帰ったか。それで、お土産は当然あるんだろうな」

「……何を言っている? いや、なぜ知っているかというのとお土産が貰えると思っていたことについて」

「以前、『生者』の居場所が分からずに困っていたことがあったからな。『生者』に身に着けている物に座標が分かる魔術を施しておいた。まあ『生者』には、何をしてもいずれは無効化されてしまうと思っていたが」

《申し訳ありません。言われて確認を行いましたが、複雑に偽装された術式を一つ発見いたしました》

 マジか、『SEBAS』ですら見抜けない偽装なんて相当レアだぞ。

 これが万能の権能を持つ『騎士王』の真価というものだろうか……やっぱり、侮れない相手なんだよな。

「ほぉう、もう解除したのか」

「……まあな。それで、なんで土産が貰えると思ったんだ?」

「それは、私と『生者』の仲だからな」

「…………」

 そんなもの、無いと思うのは俺だけか。
 ビジネスパートナーと考えていたんだが、縁起物の品ならともかくわざわざ俺が必要とするような物を土産にするわけにはいかないと考えている。

「まあ、いいか。なら──これだな」

「これは……コメか?」

「『超越者』が誰か食っていたところを見たことないか?」

「『おむすび』だろう? いや、しかし……この香ばしい匂いは……」

 そう、面倒になってさっさと渡したのはただのおむすびだ。
 しかし、ただのおむすびではあるが普通のものではない──色が茶色いのだ。

「これは店主へのお土産だったんだが……まあ、別に予備があるからいいか。いいか、これは『焼きおむすび』だ。しかも、醤油を万遍なく塗ったな」

「な、なんだと!?」

「ふっふっふ、一度食べたらもうしばらくは焼きおむすびしか食べられないと思え」

「な、なんと恐ろしいものを……」

 などと適当に演技をしている間に、店主にもう一つの焼きおむすびを渡しておく。
 一度食べてもらえば……舌の肥えた彼のことだ、すぐに作り方を理解するだろう。

「焼き串とも合う味付けだ、俺に感謝して食すことだな」

「感謝するぞ、『生者』!」

 うーん……なんか調子が狂うな。


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