虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
刀王談(01)
ツクルは倭島を去り、街は変わらぬ日常を取り戻す。
しかし、これまでとは異なった日常を送るようになった者がいる──【刀王】である。
「なかなかに愉快な男であったな。[首狩]で撥ねようと死なず、お主たちでもお手上げとはな……なあ──[万照]、[羽月]」
その場には【刀王】しかおらず、他には彼が愛用する二振りの短刀に加え、ツクルが献上した[屍装]と[妖塞]しかない。
だが【刀王】には、自分以外の者による思念が届いていた。
『あの方は、理から外れております。ですから私たちの力も発揮されません』
『それに、絶対に殺せないよ? 滅ぼす気なら、この島が無くなると思った方がいいよ』
「……それほどまでか、あやつの力は」
『はい。すでに試練を経ているのか、何柱もの神の加護を受けていました』
『あと、あれが本当の闘い方じゃなかったよね? たぶん、接近戦じゃない方が強いし』
「そうであったか」
彼の持つ二振りの短刀には、それぞれ意志が宿っている。
それこそ[屍装]に宿る人工霊体とは異なる、本当の精神生命体が刀と同化していた。
「あれで、あれだけのことができて本来の闘い方は異なると。ふっ、なんとも闘い甲斐のある男よ。いずれは其方らを振るい、あの者の敗北する姿を眺めたい者よ」
『今の私たちの力では──』
『──無理だと思うよ』
「ならば精進するだけだ。縁は切れたわけではなく、機会もそう少なくはない。最後に見せたあの居合い、あれは間違いなく神速の太刀に達していた……面白い、実に面白いではないか『生者』よ」
ツクルに居合いに関する技術は無い。
しかし、居合いをすでにその身を以って経験していたが故に、【刀王】の言うところの神速の太刀を可能とした。
「其方にも協力してもらうぞ──[屍装]」
『はーい! のーぷろぐれむー!』
「……あまり慣れぬモノよ」
『慣れなくて良いと思います』
『そうそう、放置放置』
『ひどーい、もうぷりっぷりだからねー!』
妖刀[屍装]に宿る人工霊体。
それはその名が示すように、人の手によって造られた存在。
人格設定などもある程度、意識されて生みだされたのだが……。
『ねーねーマスター、マスターはけーやくしてくれたよねー?』
「其方がそうした性格であると、隠していたからな」
『あいさつはたいせつだよー。それにー、マスターだってあっちよりこっちのほーがうれしいでしょーキャハッ♪』
『『…………』』
二振りの短刀が、ただ思念を伝えることなく内でエネルギーを溜めこむ姿に、少しだけ引き攣った表情を浮かべる【刀王】だった。
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