虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
東国巡り その16
(『SEBAS』、再現率はどうだ?)
《今の【刀王】であれば、すでに完了しております。しかし、毎秒ごとに新たな動きを加えることで再解析が必要となっております》
(なるほど、機械を超える方法はたしかそんな感じだったっけ? それを知らずとも勘でやるとは……やるな)
成長し続ける機械に勝ち続ける方法は、決してその手管のすべてを見せないことだ。
一度知られれば対策を知られることも、知られなければいつでも使える切り札となる。
際限なく情報を集め、高みへと至る──故に足りなければそこへは達せない。
無限に成長できるのが学習する機械なのであれば、自在に変化できるのが人間の特徴なのだろう。
(『SEBAS』、結界のリミッターを外せば勝てるのか?)
《可能です。【刀王】の摸倣を再現以上に行えば、旦那様に勝利をもたらすことは容易くなるかと》
(なら、やってくれ。自分に勝ちたいと言っていたんだ……そうしてやろう)
《──畏まりました》
空気が元に戻り、声が伝わる。
しかし【刀王】は、呼吸音すら出さずにただ沈黙を貫く。
意図的に血の巡りを操作し、身体能力を高めているのだろう。
「次で最後にしましょう」
「……居合いか」
「模擬戦の最後としてはちょうどいいでしょう。どうされますか?」
「いいだろう、乗ってやる」
互いに鞘に刀を押しこめ、反発する力を溜め込んでいく。
意識は完全に刀へ向かい、ただ抜き去るタイミングに集中するだけ。
──どこからともなく葉が舞い散る時、鋭い刃が軌跡を描く。
◆ □ ◆ □ ◆
「なかなかのものであったぞ。この勝負、引き分けということにしておこう」
「ありがとうございます」
「ついては、勝ちと負けの折衷案──互いに同意の上で『生者』の求めるものを許可するということでよいな?」
「……もしや、狙っていたのでは?」
なんのことやら、と笑う【刀王】。
俺が弱かったら、制限を設けるだけで済んだわけだし……うん、可能性はあるな。
「しかしこの妖刀……見事なモノだ。ぜひ、鍛冶師を紹介してもらいたものだ」
「特殊な技術が用いられていることから分かるように、彼の鍛冶師とは情報の秘匿を条件に取引をしております。お求めになるのであれば、そう伝えておきますが?」
「おお、それはよいぞ! うむ、ぜひそうしてもらおうか!」
「わ、分かりました……その熱意、可能な限りお伝えしましょう」
俺が俺と相談し、どの程度外に売るのかを決めているのだから嘘は言っていない。
取引だって、そのやり方が適当すぎること以外は間違っていないわけで。
「では、さっそく話し合いをしましょう」
「うむ、そうであるな」
俺ではなく『SEBAS』が相手となる商談だ、よりよい結果となるだろう。
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