虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
東国巡り その15
無音の世界、音が無いわけではなく音が失われた場所へと変貌した。
それは、音を伝えるための空気がここら一帯から失われたため起きた現象だ。
「────」
しかし、【刀王】は動揺しない。
一瞬ピクリとしたが、それは肌で感じていたものが突如失われたことによるもの。
すぐに意識を切り替え、動き始める。
(さてさて、どう動くのやら)
正規版は永続的に俺が解除するまで空気を弾く領域を生みだすが、今回使った劣化版の場合は強力な一撃を放つか外部から空気を取り寄せなければならない。
これにより、魔法使いなどは追加で詠唱ができない状態ということで酸欠で気絶する場合が多いのだが……【刀王】は一度も口に出す必要がある技を使っていないので、そもそもこれそのものに意味は無い。
だが、その副次結果──空気を取り込めなくする結界の生成には成功した。
劣化版、それはつまり手を加えた品ということであり……『SEBAS』の介入を受けた逸品でもあるというわけだ。
(おおっ、本当に理解しているんだな)
刀である[屍装]には、喰らったもので強化される人造精神体を憑依させているわけだが──鞘である[妖塞]にも、そうした特殊機能を詰め込んである。
(擬似的な超能力の発露──あくまで心霊現象だがな)
騒霊現象──通常では説明のつかない現象の数々を総称したもの。
物体の移動、物を叩く音の発生、発光や発光などが誰も居ない場所で起きること。
妖刀を振るい鞘を握る者には、騒霊現象を行う力が与えられる。
運用には刀に宿る霊体が持つエネルギーが使われ、妖刀を育てれば育てるほど騒霊現象の強さも向上するという仕組みだ。
『ハッ!』
言葉ではなく霊の力──霊力を行使した斬撃は、俺の予想をはるかに超えた威力で結界にダメージを与える。
その影響か、【刀王】の斬りたいという強い感情が思念として届いてきた。
(たしか、霊気は感情とリンクして強大になるんだったか?)
《はい。正確には魂魄の内、魂──内面で活性する精神との結びつきにより、霊気は強化されます》
(俺みたいにあれこれ考えているヤツより、ただ斬ることを考えている方が威力が高くなるのは当然ってことか)
《そうですね。精神面まではサポートを行うことができません。まだまだ至らぬようで、申し訳ございません》
まったく『SEBAS』は悪くないが、今はそれを否定している暇はない。
ゆっくりと『窒息死』(劣化版)で生みだした結界が壊れ、再び音のある世界に回帰しつつあるからだ。
──ただまあ、好いものを見させてもらった礼をしなければな。
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