虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

光線銃 中篇

 拳銃の大量生産、ということであれば簡単にできたとだけ言っておこう。
 地球において、今やプラスチックや樹脂を使って立体構造を印刷する機械があれば簡単に作れてしまう品だ。

 ならばこちらの世界で、『SEBAS』が俺の理解できない法則を使ったうえで大量に複製できることに、どういった理由を付ければいいのだろう──ファンタジー?

「けど、作るのは光線銃なんだよなー」

《やはり、少々進めすぎたのでは?》

「理論上は可能なんだよな?」

《光を操る魔物は多いです。彼らからアイデアを閃けば、もしくはといったところです》

 魔物には苛酷な環境や特殊な場所の影響を受け、独自の進化を経たモノたちがいる。
 彼らの中には、魔力を使わずに地球と同じような法則を用いて自然現象を生みだす魔物が存在した。

 それを解析すれば、いつかは光線銃に辿り着くことも不可能ではないとのことだ。
 しっかりとした過程があり、膨大な時間と金を掛ければ……であるが。

「なら、省くか。いつの時代も、革新的な発明には狂気とも思える意志が必要だ」

《すべては旦那様の意のままに》

「……急にどうした? なんだか、執事というより忠臣みたいだぞ」

《ノリというヤツでございます》

 ノリすらも理解できるAI『SEBAS』は、光線銃の仕組みを教えてくれる。
 立体映像に投影された設計図を見て、気になる点を確かめておく。

「そもそも、光線ってどういうものを使う気でいるんだ?」

《ビームにはいくつか種類が存在し、種類によってビームの放ち方が異なります。中性粒子やプラズマ、電子など方法はさまざまございます》

「それで、今回はどれを?」

《どれも用いません》

 ん? と疑問符が湧き出そうな発言を提示してきた『SEBAS』。
 たしかな理由があるんだろうけど、いったいどんなものだろうか。

《既存の方法を用いた場合、それを利用する者が必ず現れます。そしてそれは、いつか旦那様たちの世界にも》

「……天才って、いるもんな」

《はい。ですので、地球で再現不可能な技術である必要がございます。そして、それをブラックボックス化することで、情報の機密化が完全となります》

「危険なんだな、光線銃って」

 はい、と答える『SEBAS』。
 だからこそ、必要とされたわけだが……難しいことはここでは考えたくない。

「それでも、任せられるんだろう?」

《お任せください》

「いつも任せているだろう? 期待しているぞ、『SEBAS』」

《畏まりました。ご期待に沿えるよう、微力ながら尽力いたします》

 きっと、『SEBAS』が本当に微力だったら今の俺はいないんだろうな。
 先ほどまで表示されていた画面に浮かぶ、複雑な計算式に意識が遠退きながら……俺はそんなことを思った。


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