虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

企業戦士 前篇



 少女──アイは困惑していた。
 友人に薦められ、ようやく親を説得して手に入れたゲーム──EHOを始めた。

 設定をしっかりと整え、友人と共にゲームの世界へ飛び込んだ……そして、知らない男たちに絡まれてしまう。

「えっ、何がどうなってるの?」

「分からない……けど、なんだかあの人、見たことない?」

 友人と小さな声で話し合う。
 男に絡まれ、困惑していた……周りの人々は何もせず、ただ自分たちを好機の眼差しで見ているだけだった。

 チュートリアルで習った通り、GMという偉い人に助けを求めようとしたとき──空から男の人が現れたのだ。

「──ほらほら、君たち。そんな風に女の子に責めよっちゃダメだよ」

 現代でも着られている作業服。
 無数にポケットが付けられているその服を着ていること以外、ごく普通の大人の男性。

 特にゲームの世界らしい装備を着ているわけでもない男だけが、アイたちに迫る男たちの行く手を阻んだ。

「ああ、なんだよおっさん。そんな見すぼらしい恰好でよう」
「なんだなんだ、金は無いけど正義の心は有りますってか?」
「おいおい、笑わせんなよ。ダッセェ」

 当然、アイたちを囲んでいた男たちは腹を立てて挑発を行う。
 相手は『虚弱』という言葉を体現したかのような、弱さを誇る。

 鑑定を行い、ステータスを覗いた男たちはそのことに気づき──さらに嘲笑した。


「おい、聞けよテメェら! この勇敢なおっさんは、MPとDEX以外全部1のくせに女の子を救おうとした正義のヒーローだ! その行いに、称賛の嵐をしてやろうぜ!」

『ぷっ……マジかよ!』


 やじ馬たちは笑いだす。
 雑魚とも言えるステータス、それがこの世界において何を意味するのか……初心者にも劣る弱者の身で、人を救おうとする烏滸がましい行動を褒め称えるあざわらうように。

 アイたちは怒りを抱いた。
 何もしない周りの者たちより、たとえ弱くとも助けようとしてくれた男の方がマシだと思えたからだ。

「ちょ、ちょっと……そんな言い方……それに、笑うなんて……」

「構いませんよ、お嬢さん方。家庭しか守れない企業戦士が、ちっぽけな勇気を振り絞ったところでこうなることは分かっていましたので……ただ、少しはできるということを見せておきたいんですよ」

 娘が観ているかもしれませんので、と男は言ってある物を取りだす。
 すると、辺りが騒めきだした。

「……おい、嘘だろ!」「マジか、本当に実在したのかよ!」「いったい、どこのどいつがあんなもん作りやがった!」

 誰もが驚愕し、息を止める。
 少女たちもまた、男が握り締めたソレを見て唖然とした。

「それじゃあ、始めましょう──サドンデスのPvPを」


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