虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

偽善者なしの赫炎の塔 その12



 六階層の攻略は翌日となった。
 また、メンバーが変わるのだろうな、と思いながら就寝したシュカを迎えるのは……予想通り、リュシルとリュナ以外のメンバーが交代した攻略隊だ。

「おそらく、本日が最後となるでしょう。十層は『賢者』の住まう場所、そして迷宮核ダンジョンコアが存在するはずです」

「では、迷宮核を破壊してしまった場合」

「おそらく『賢者』が死にます。しかし、これはあくまで『賢者』と迷宮の主が同一人物である場合に限ります。いずれにせよ、十層に向かえばそれも分かるでしょう」

 リュシルはそう言って、説明を終えた。
 そして、新たなメンバーを紹介する。

「シュカさん、そしてリュナさん。今回はこちらのユラルさんとアリィさん、そしてアイリスさんと上を目指しますよ」

「よ、よろしくお願いする」

「お願いします」

 シュカとリュナがそうペコリと頭を下げ、それを見る三人が自己紹介を行う。

「リュナンは久しぶり、シュカンは初めまして。私はユラル、樹の聖霊だよ」

「アリィはアリィ、よろしくね」

「やっほー、ワタシはアイリス。二人とも、いっしょに頑張ろう!」

 若葉色の髪を持った優しげな少女、トランプ模様のドレスを着飾るストロベリーブロンドの髪色をした少女、背中から小さな翼を生やすアッシュブロンド色の髪を伸ばす少女。

 三人もまた、礼儀正しく二人に頭を下げたため、慌ててそれを戻そうとするのがこのあとの流れだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 六層は仕掛けではなく、純粋な戦闘力で侵入者を阻むようだった。
 これまでは扉に当たり外れがあり、時には何もない空っぽな空間が広がっている場合があったのだが……この階層の扉は、すべてが魔物の生息する環境に繋がっている。

「リュナン、伏せて!」

「うん」

 ユラルの指示を受けて屈むリュナ。
 するとその直後、彼女の頭すれすれに巨大な樹が現れ、さらにその上から落ちてくるそれ以上に大きな拳骨から身を防ぐ。

 彼女たちに居る部屋に居たのは、一体の巨人であった。
 その名は『ヒートタイタン』、触れるものすべてを燃やす灼熱の肉体を持つ巨人だ。

「大丈夫、リュナン?」

「はい。問題ない、です」

「そっかぁ……時間をかけると私の樹も燃えちゃうみたい。リュナンの爪はどう?」

「……燃やせません。けど、燃えません」

 互いに切り札を使わない現状では、千日手となっていた。

 ユラルの樹は燃え、リュナの炎の爪は巨人の皮膚を燃やせない。
 しかし、巨人の炎もユラルの防御を超えることができず、リュナに宿る炎の耐性を上回ることができずにいるからだ。

「なら、こうしよう──『火焔樹』」

「!」

 ユラルが魔力を籠めて言葉を告げると、地面から二本の樹が生えてリュナの手に纏わりついていく。
 やがて根が消えると、そこには綺麗な籠手となった樹だけが残る。

「これは……」

「リュナンの炎をもっと強くするための補助道具? たぶん、どうにかなると思う」

「たぶん……」

「と、とにかくやってみよう!」

 誤魔化すように声を上げるユラル。
 少しだけ、そこに不安を感じたリュナだったが……籠手も含めて手に炎を集めた瞬間、その違いに驚く。

「これ、凄い……!」

「ふふーん、これが私の力です。さぁ、リュナン──やっちゃってください!」

「行きます──っ!」

 リュナは勢いよく巨人へ向けて駆け出す。
 ただ黙っているわけではない巨人は、その巨躯を振るって近づく小虫を吹き飛ばそうとするが──その体に何本もの樹が絡みつき、簡単には動けなくなる。

「そう、簡単にはいかないよ。縛りがあっても使える中で、かなり上質な樹だもん」

 一度触れた樹木であれば、どのようなものであれ生みだすことができるのが樹聖霊たるユラルの力。
 彼女はその力を生かすため、さまざまな樹木を生みだしては己の糧としていた。

 属性を纏う樹や魔力を生みだし樹、はては聖具と同じ力を発揮する樹まで生みだすほどに、その力は昇華されている。

 今回、ユラルが生みだしたのは『吸熱樹』という樹。
 その効果はシンプル──ありとあらゆる熱という熱を根こそぎ奪い、己の糧にするという凶悪なもの。

 樹に対する絶対命令権を持つ彼女は、奪う対象を巨人だけに限定して使うことで、半永久的に拘束力を維持することを可能にした。

「さぁ、やっちゃえリュナン!」

「うん」

 いつも以上に激しく燃え滾る、彼女の手に灯る焔。
 巨人を縛る吸熱樹を足場に移動し、もがく巨人の脳天に向けて──爪を差しこんだ。



「お疲れ様ー。うん、凄かったよリュナン」

「ユラル様のお蔭、です」

「ユラルでいいよ……って、そう言われたとしても、言っちゃうと怒られるんだっけ? うーん、せめて様付けは止めてね」

「……ユラルさん?」

 ならばよし、とリュナの頭を撫でる。
 ユラルは聖霊であり、それなりの時間を自覚して生きているのだ。
 ただし、人と精霊とでは時間の認識が異なるため、精神年齢を気にしてはならない。

「リュナン、鍵はあった?」

「……ここに」

「さすがリュナン、もう見つけたんだね!」

「はい」

 再びよしよし、と頭を撫でるユラル。
 ほんの少しだけ、鬱陶しそうに顔をしかめるリュナ……その耳と尻尾は、ピコピコと何かを表すように揺れていた。


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