虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

特級会員 前篇


 アイプスル

 リソースが溜まるまで、『侵雪』関連の開発はお休みだ。
 というより、そんなはるか北の地で何かをするよりも大切なことがあった。

「まあ、サクッと作っておこう」

《本日の分でございますが──》

 スケジュールを『SEBAS』に確認し、さっそく作業に取り掛かる。
 念じて発動できる:DIY:を起動し、指示された通りにアイテムを作成していく。

「よし、完成」

《では、向かいましょう》

「了解」

 慌てる必要はないんだが、その日の内に済ませておくことが勧められる事柄だった。
 なのでやるべきことをやったら、あとは向かうべき場所にすぐに向かう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 始まりの街 生産ギルド

「──北が盛り上がっているようだね」

「…………」

「なんでも、何者かが『侵雪』を一部払ったお蔭で事業が進められるんだとか……」

「それはそれは、大変おめでたいですね」

 心からの称賛だったのだが、どうやら皮肉と受け取られたようで。
 こめかみをマッサージしながら、ギルド長はため息を吐いてからこう言ってきた。

「めでたいのは君の高すぎる戦闘能力なのかもね。戦えるし、蘇生薬作れるし、おまけに偉い人とコネがあるし……まったく、君はまさに爆弾のような人だよ」

「? ……お褒めいただき、光栄でございます。というより、褒めていますか?」

「ああ、うん、褒めてる褒めてる。君がいなかったらどうにもできなかったプランがいくつもある。そういったことも含めて、君には感謝しているよ」

「そうですか。恩のある方に恩義を返せたのであれば、こちらとしてもこれまでやってきたことが無駄ではないと思えます」

 思えばいろいろとやってきたものだ。
 適当にポーションを売っていたら連行、そこから始まる取引、出会う『超越者』、始まる揉め事の数々……すべてがプラスだったわけではないが、それでもたくさんである。

「さて、そんな君には一つ提案があるんだけれど……聞いていくかな?」

「ちなみに、拒否権は?」

「もちろんあるよ。ただ、この話に関しては絶対に君が損をしないと約束できると思うんだけど……」

《旦那様。危険な依頼や新たな取引などではないと思われますが、それでも何か思惑があるようです──いかがなされますか?》

 まあ、さっきも言った通りギルド長にはそれなりに恩があるわけで。
 それを返せるというのであり、あまり面倒事でもないのであれば……。

「まずは話だけ聞きましょう」

「ありがとう。じゃあ、まずはこれに目を通してね」

「……『生産ギルド特級会員』?」

 紙に記されたタイトルを読み上げてから、ギルド長の顔を窺う。


「そう。VIPだけが入れる特別な階級が今回設けられた──そこに入らないかい?」


 ニヤリと笑うギルド長は、まさに悪戯妖精パックと呼ぶのが相応しかった。


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