虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
吹雪精狼
街の外に出る前に訊いておいた。
こちらの世界の住民の中には、『侵雪』に打ち勝ち土地を取り戻すという悲願を抱いている者も居るらしい。
それは雪国の王族であったり、成り上がりの貴族だったり、一発逆転を狙う平民だったり……理由は違えど、皆一つの目的のために荒れ狂う吹雪と戦っている。
──ここら辺は入り口で聞いたな。
「ただ、居る気がするな……この先に」
《頂いた資料の中には、そういった情報は記されていませんが……》
「けど、雪の女王みたいにひょんなことからこっちに来るかもしれないからな。警戒はしておくべきだろう」
レーダーに反応は無い。
だが、長年……というほどではないが、それほどに経験してきた面倒事に関する勘的なナニカが、それを告げていた。
成り行きというのもあるが、強者の情報が記されたリストには雪や氷に関する能力を持つ者の存在も記されている。
そんな中、何もしないでいるのもどうかと思う……まあ、会ったときは挨拶ぐらいはしておこうか。
◆ □ ◆ □ ◆
すぐに次の区画に行けると思ったのだが、広く寒いこの環境では難しいようだ。
俺を取り囲む大量の狼たち、今も雪に紛れてその数を増やしていた。
「なに、この無限増殖する狼……」
《種族名:『吹雪精狼』──雪と半同化を果たした半精神体です。雪がある限り、彼らはその肉体を雪に溶け込ませることで蘇ることができます。が、日が射すと体を維持できずに消滅してしまいます》
「可哀想な魔物だが……ここだと無敵だな」
《その通りです》
雪の中でしか生きられない、とかそんな安い同情を買っている暇はないのだ。
ただ呆然と立ち尽くす俺など、彼らにとっては絶好の獲物でしかないのだかな。
勢いよく噛み付き──そこに結界が構築されていることに気づく。
だが、ここからの行動が普通の魔物と異なるモノだった。
すぐに他の吹雪精狼との連携を取ると、合わせたようにいっせいに魔法を放つ。
生みだされたのは巨大な氷の槍──それが俺目がけて高速で飛んでくる。
「あー、うん。普通の結界だったなら確実に破壊されていたよな」
『──ッ!?』
《威力計測完了──彼らにとって氷属性は自在に扱える物。何十発でもあの威力を維持できることでしょう》
「うわっ、最悪だな」
俺は無傷、結界も破壊されていない。
戸惑う狼たちの息遣いが、なんとなく理解できてしまう……さすが『龍王』さんの結界だよな。
彼らは先ほどの雪のアンデッドみたいに、お湯をかけても死ぬことは無い。
というか、死んでも吹雪と同化すれば何度でも蘇ってくる──こっちの方がアンデッドみたいなする。
「だからこうする──『SEBAS』!」
《太陽光線凝縮砲──『ソルロン』の準備が整いました》
「撃てー!」
《仰せのままに、旦那様──照射》
光の柱が、凍てつく世界に注がれた。
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