虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

お湯鉄砲



 いろいろと何かを反省した気もするが、すべて忘れて探索を始める。
 あれだけ散々宣伝した『雪目薬』とゴーグルの効果もあり、良好すぎる視界を確保して探索ができていた。

「ただ……歩きづらい」

《結界ごと足が冷えているのかと。また、重量オーバーで沈んでいます》

「軽く……はできないか。寒さは熱機能でどうとでもなるけど、重さはどうしようもないな。雪の強度を高めることは?」

《可能です》

 道の方を上手く修繕し、俺は何も変えずに街の先を進んでいく。
 もちろん、融かしづらくならないように対策はしてある……ドローンが一定時間ごとに雪を融かすことでな。

「魔物の気配が無いな……そんなにすぐに出てくるようなことはないと」

《調べておきましたが、『侵雪』は一定期間ごとに街へ近づくんだとか。そのため、このような時は前に進み出て、一体でも多くの魔物を討伐するようです》

「するとどうなるんだ?」

《解放されて雪が止みます。また、最終決戦としてそのフィールドに居たボスが猛威を振るうようです。負けたら元に戻ります》

 やる気さえあればいいのか、一定期間はボスがスタンバイしてくれるらしい。
 しかも、挑む人数は無制限で誰が倒しても一定フィールドが解放されるんだとか。

 ──ずいぶんと優しいシステムだ。

「おっと、ようやく魔物……じゃないのか」

《アンデッドのようですね》

「そりゃあなんとも珍しいな」

『グオォォォォ……』

 アンデッドとの戦闘経験が少ないのだ。
 なにせ、ドローンさえあれば勝手に魔物だろうが屍だろうが掃除してくれるわけで……それはつまり、魔物との戦闘経験そのものが少ないように感じる。

「まあ、たまには戦うか。『SEBAS』、他の個体はさっさと成仏させてやれ」

《畏まりました》

 その言葉に、上空から光が降り注ぐ。
 太陽が顔を出したわけじゃない……どこからか光属性の魔力が溢れだし、潜むアンデッドたちを焼き殺したのだ。

 これがあれば一掃も簡単だったが、自分で戦うことも大切だろう。

「俺は……これでいいか」

『グォォォォ──』

「聖水入りお湯鉄砲」

『グォォォォォォォォォォ!!』

 おお、効いてる効いてる。
 すぐにお湯は冷えて水になり、アンデッドの動きを止める氷の棺桶になっていく。
 本来なら、そんなはずないのだが……ここはファンタジー世界の寒い環境だしな。

 氷の彫刻となったアンデッド。
 その現れた際の姿に関して『SEBAS』と話し合う。

「あれは……ここで死んだ者か?」

《いえ、正確にはその情念が負の力を糧に動き出した魔物です。雪で対象を包み、永遠の時を彷徨います》

「それじゃあ、中身は」

《居る場合と居ない場合があります……ですが、戦闘力が低かったことから、外側だけをコピーした個体たちだと判断しました》

 なるほど、過程が面倒臭い劣化版ドッペルゲンガー量産機……みたいなものか。
 雪という触媒が必要だが、アンデッドを生みだせるんだと……負の力、研究する必要がありそうだな。


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