虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
羊山羊
N9
満足するまで狩りを終え、最終的には崖を登り切ることに成功した。
まさか、運営があそこまで執念深く違反した者を追いだそうとするとは……その狂気に若干震えてしまったよ。
「まあ、何はともあれ目的地だ」
山頂にはいつものようにキューブがある。
ただし、それは澱んだ輝きを放ってはおらず、むしろ温かな光を周囲に届けているようにも思えた。
「ここはもう、攻略済みエリアか」
《向かわせたドローンより、一区画先に休人が居たとの情報を確認しました》
「なら、ボス戦も簡単で済むな。一々強化ならぬ狂化体と戦闘しなくていいんだし」
《左様にございますね》
いつもいつも、死にかけるような戦いをご所望するほど、ツクルさんは荒んでません。
そりゃあ、たまには興奮するようなワクワクする戦いがしたい……かもしれないけど、普通がやっぱり一番なんだよ。
マジックハンドを延ばし、離れた場所から遠隔操作でキューブに触れさせる。
すると、キューブが輝きだして中から魔物が出現した。
『メェエエエエエエ!』
「いつもより一回り小さいな」
《いかがされますか?》
「……とりあえず、倒すか」
現れたのは、二本の角を生やした獣──山羊であった。
そういえば、鳴き声が似ている羊は『メ』ではなく『ヴェ』と鳴く場合があるらしい。
……いや、それがどうしたってわけでもないんだけど。
「要するに、コイツは山羊なんだよな!」
《おそらく。可能性として、両種の性質を取り込んだキメラという可能性も》
「かもな!」
『メェエエエエエ!』
なぜ、そんなことを言っているのかといえば、角は生えているが(山)羊毛が物凄くふわふわだからだ。
確信が持てずにいる、本当にキメラ的な種族なのかもしれない。
「まあ、倒すけど──『闘仙』」
戦闘スタイルの切り替えを、体に纏う結界によって強引に成す。
仙丹を操り、森羅万象を操る……殴り系魔法職とも言える『闘仙』。
「──地裂脚」
その動きを再現し、模倣した一撃を大地に叩き込む。
割れた地面を軽やかに山羊(?)は回避、そのままこちらへ接近してくる。
『メェエエエエエ!』
「切り替えて──『拳王』。近距離ならほぼ最強だな」
『ヴェエエエエ!』
うーん……本当にどっちなんだ?
拳を無意識で、というか結界で弾かれるように動かされる体を自在に振るわせながら、そのことを考察する。
「まあ、いずれにせよ討伐すれば素材から名前が分かるのか……って、山羊と羊なんだから名称が誤魔化されるか?」
《双方の遺伝子を調べましょう。新種の開発にも役立つかもしれません》
「そうするしか……ない、のかな? できるだけ、原種に悪影響が無いようにしてくれ」
《畏まりました》
そんな会話をしている内に、山羊(?)の命は燃え尽きた……うん、いつもより比較的早く終わったな。
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