虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
不可視の投擲
N7
再び森の中となった。
ただし、チクチクと尖った針葉樹っぽい樹木が立ち並ぶそのフィールドを歩き回るその姿は、E2や3を歩いていた頃とは明らかに違うことがある。
「……寒くなってきた」
すぐに結界の機能の一つである耐熱結界を展開し、いちおうはその変化を防ぐ。
だが原因はまだ分からないので、ガンガンと魔力を溜めこんだバッテリーが消費されてしまう。
「しかし、針葉樹か……クリスマスの時期になったら、アイプスルにも一本デッカイのを立てないとな」
《クリスマスですね?》
「そうそう。今は家族も来れるようになったわけだし、星に住む住民を集めて派手な祭りにでもしようじゃないか」
《では、プランを立てておきましょう》
ただデカい樹でいいならば『真・世界樹』でもいいんだが、やはりクリスマスのツリーと言えば針葉樹……というよりモミの木だ。
あれは落ちない葉を各地で何かの象徴としているから、選ばれているらしい。
一方、『真・世界樹』の葉は落ちる。
それが貴重な素材にもなるんだが、そのことが仇となって却下となった。
進化(?)前の『世界樹』や進化後(?)の『宇宙樹』であろうと、葉は落ちるぞ。
閑話休題
そんな明るい未来に胸を明るくしながら歩いていると、俺は突然──死亡する。
《旦那様》
「投げられてから気づいた。いや、針葉樹の葉ってこんなに鋭いのか……」
称号『死を愛す者』の効果によって、俺の死因は[ログ]システムに記載される。
それによると、投擲されたアイテムによって(比喩的に)膨らんでいた胸を一気にしぼませられてしまった。
かつて、『槍草』とかいう鋭い葉を持つ植物を見たが……その樹木版であろう。
そんな針葉樹の葉が俺の肉体を貫き、知らぬ前に殺したようだ。
《ドローンにて捜索中。通常モードでは確認できないことから鑑みても、おそらく敵は不可視に近い能力を有しております》
「かくれんぼか。まあ、鬼を追い出そうとしても無駄だってことぐらい教えてやるか」
《畏まりました。熱源感知、並びに魔力感知による捜索に切り替えます》
ドローンの内部バッテリー(魔力)に限界があるため、なかなか使っていないモードで敵を捜索する。
するとすぐに、『SEBAS』から発見の報告を受けた。
《捕捉完了。随時、敵に関する情報を送らせていただきます》
「了解」
受信用のサングラスをかけると、モニターが出現して敵の位置を教えてくれる。
あえて気づかないようにクルリと体を動かし、一瞬だけその相手を見た。
「へー、猿か」
猿が針葉樹の葉を鋭く尖らせ、準備をしている姿が映る。
さすがに自分の熱までは隠せなかったようだな……よし、終わりにしよう。
「ドローン、素材を傷つけないように昏倒させるんだ」
《了解しました。仮死弾での射撃を開始します──完了しました》
銃声が鳴り響くでもなく、ただ開始と終了の声だけが数秒ほどの間を開け伝えられる。
発砲音は結界に防音され、木から墜ちた猿もそのままドローンが回収したため音がいっさい鳴らないのだ。
「真の暗殺者とはこれぐらいできないと駄目なんだよ、お猿さん」
構造を解析し、不可視化の秘密を調べておかないと……やれやれ、やることが増えてしまったよ。
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