虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
魔王城再訪 後篇
「まず、貿易は難しいだろうな」
「やはりそうですか……」
「それ自体を行うことは容易い。が、それは魔族との裏取引と取られかねん。そうでないことは相手も承知の上、ただ足かけのためにそれは使われるだろう」
「やれやれ、どの世も不便で仕方がない」
いつものように貿易を──だが今回は、俺とではなくとある場所と──提案したのだがあえなく断られてしまう。
一つの企業に拘った関係を見せると、他の関連企業は近づかなくなるもんな。
「では、魔族を受け入れている地域というものはありますか? いくつかあるのでしょうが……」
「無論ある。だが、我が友から情報が流通する可能性もある、すまぬがたとえ我が友とて言うことはできぬ」
「こちらだと、聞きだす技術も上がっているのでしたね。私も別に、強引に吐きださせたかったわけではないので構いません。あるという確証だけ欲しかったのです」
「そうか? 探してみるといい、場所によっては自分たち以外の人族を恨んでいる場所すらあるからな」
うーん、希少種族でかつて奴隷狩りに遭っていた的なパターンだろうか?
それこそ、造形によっては『アイプスル』への引っ越し案件だな。
「では、そろそろ商談をしてもらえぬだろうか。悪いが少々、ウズウズしていてな」
「【魔王】様にも、子供のような一面があったのですね」
「そうかもしれぬな。それよりも」
「分かっておりますよ」
取りだしたのは一振りの剣。
真っ黒に染まりながらも、一筋の銀色の線が輝く意匠となっている。
「おおっ、これは!」
「銘を『銀閃』、と呼ぶ魔剣となります。件の少年が持つ星の剣には劣るものの、それ以外であればほぼなんでも斬れますよ」
「素晴らしい、約束した通りの品だ!」
「……いえ、こちらの我が儘を通していただきありがとうございます」
生産に携わる者のほとんどは、自分の関わる品には全力を注いでいるはずだろう。
だが今回、【魔王】と取引して打ち上げたこの魔剣には一つ制約が設けられている。
「分かっている。能力は使わない、それだけでこれが手に入るのであれば安いことだ」
「ありがとうございます」
「構わぬ。だが、証を持ち歩いていないのであればそのときは、こちらも全力を以って迎え撃つ所存であるぞ」
「はい、それで構いません」
少なくとも記憶の摸倣だけは、勘弁してもらいたかったので商談を持ちかけたのだ。
それなりに使える武器をあげるから、俺の関係者の記憶は読まないようにと。
「友には伝えるが、我が力にも限界はあるのだ。世界に絶対的な万能など、『騎士王』以外に存在しない」
「……やはり、ですか」
「あれは世界が生みだした正常な異常、人が生みだした現実の幻想だ。【魔王】以上に厄介な存在に対する、カウンターの使命が与えられた化け物だな」
それはきっと、侵略者よりも厄介な存在のためだろう。
取引は終了した、今日はここまでだ……カルルを連れて帰らないとな。
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