虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
説得
「も、申し訳ございませんでしたーーー!」
「あっ、えっと……うん、気にするな」
「私からもお詫び申し上げます。このたびはうちの『フィーヌ』が……その、ご迷惑をおかけしたようで」
「いや、本当に気にしなくていいんだ。あくまで俺が誤解されるような恰好で行ったのが悪い……悪い。そうだな?」
状況を説明しよう。
さすがに寝台でこういった話をするわけにはいかず、執務室的な場所に移動した。
そして、ルリがそこに備え付けられた魔道具で誰かと連絡を取り合うと──こうなる。
過程は端折ったが、そのあと引き摺られるように俺を捕縛した女騎士が首根っこを捕まれて運ばれてきたとだけ記しておこう。
「はっ、寛大なお言葉に感謝いたします」
「ミスなんて誰にもあることだ。ルリもそう思うだろう?」
「ええ、たとえ戦場に現れた夫を訝しげられようと、優しさで包み込むのが教祖としての務めだもの」
「本ッ当に申し訳ありません!」
ちなみにこの場に居る女騎士の上司は、前にルリが紹介した『くっ殺』さんである。
騎士団長というポジションに就いているらしいが……完全にルリの遊びだな。
「いや、だから過去は振り返らずとも気にしていない。大切なのは、過去に抗さず受け入れようとすることです。騎士団長であるアナタや、それを目指そうとする熱心な信徒であるアナタであれば……理解できますよね?」
「し、しかしですが……」
「まずは敬語を使わなくていい。もちろん、教祖様の居る前で強要はしないが」
後ろでルリが頬を膨らませている気がするが、それは無視して説得を始める。
彼女たちはルリに忠誠を誓うことで騎士団として成り立っている。
被保護者の恩恵にあやかることで、強化されるというスキルもこのゲームにはあるらしいからな。
なので、それを止めることはできない──できることから、第一歩ってことだ。
「ルリからも言ってくれないか?」
「……(むすー)」
「あの……ルリさん?」
「なんですか、ツクルさん」
嗚呼、このパターンのルリは面倒臭い。
普段はおっとり妻みたいな感じだが、時折構ってちゃんのようになるのだ。
まあ、これもルリの可愛らしさの一つでしかないんだけどさ。
「──二人共、席を外して呼ぶまで外で待機してくれるか? できるなら、誰かが入ってくることは避けたい」
『ハッ、畏まりました!』
教祖の夫という地位は凄まじく、認められさえすれば騎士団の団長にすら命令することが可能のようだ。
だが、そんなことは今はどうでもいい。
今は──もちのように柔らかな頬を膨らませた、愛しの妻を宥めることが最優先だ。
「ルリ、訊いてくれ……」
ちなみに扉は厚いが、耳を澄ませば外側から声が聞こえる仕様になっている。
つまり、中で何が起きているのか分かるのだ……わざと外に出した理由が分かるよな?
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