虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
始まりの聖堂
始まりの街には、変化が起きている。
それはいつものことなんだが、少し前にかなり大きな変化が起きていた。
教会の平和的な乗っ取り……まあ、つまりは中で崇められている存在が変わったのだ。
「ついに来たか……」
見た感じ、そこはただの聖堂だ。
いや、聖堂に『ただの』という修飾語を付けていいのかは微妙だけど。
とにかく初期地点に相応しい、派手さのないシンプルな構造ってことだ。
「紹介状も書いてもらったし、大丈夫……のはずだよな?」
かつて戦場を共にした、というとカッコイイ響きなんだが……後半はルリの指示で何もしてなかったか。
そんな戦友(?)の一部が、聖堂の入り口で見張りをしているので駆け寄っていく。
「すみま」
「──何者だ!」
「ひぃっ!」
入ろうと声をかけただけなのに、思いっ切り抜剣したうえで突きつけられたしまった。
ついビビッて、尻もちをついてしまった俺は悪くないと思う。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だ! 祈りが必要なのであれば、北地区へ行け!」
どうやらここは、ルリの拠点なため重要な場所として位置づけられているようだ。
冒険者ギルドがある北地区、そこに俺はなかなか行かない……いつの間にか、配置換えでもしたのだろうか?
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
ポケットの中からルリに書いてもらった紹介状を取りだし、女騎士に見せる。
「あ、あの……こ、これを……」
「ふんっ、紹介状か」
奪い取るようにそれを引き剥がした女騎士は、さっそく中身を確認しだす。
始めはいろいろと訝しみながら、読み進めていた……だが最後の辺り、ルリ用の紋章がある辺りで体をピシリと硬直させた。
「ここ、こ、これは……」
わなわなと震え、俺の顔と手紙の紋章を何度も見直し……ホッと息を吐く。
「そ、そうだ。こんな奴が、教祖様の紋章が記された手紙を持っているはずがない……貴様、偽物を!」
「ああ、なるほど……そうなりますか」
聖女様なんだか教祖様なんだか……両方を兼ねてるって、さすがルリってところだな。
「きょ、虚偽だ虚偽! 貴様を拘束し、裁かせてもらうぞ!」
「……いずれ分かりそうですし、そちらの方がいいでしょう。お好きにしてください」
なんだか目がグルグルとなっている気がするが、そっとしておいた方が彼女の精神状態的にもありがたいだろう。
時には何もしないことこそが、救いとなるのだ……最初に何もしなかったから、そうせざるを得ないとも言うけど。
「魔力封じの手枷だ。大人しく付けろ」
「……優しくしてくださいね」
「ふざけるなっ!」
そうして俺は、手枷を嵌められたまま中に入ることになった。
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