虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
王の悩み
「……経費がな」
「──思った以上に理由がクソだった」
「待ってくれ! もう『生者』しか、救いの手が無いんだ! このままでは……もう、どうしようも……」
「ハァ……。もっと詳しく言え」
家族と再会したせいか、少し心が温まっている俺は『騎士王』にも優しくできる。
たとえ、家を建てるお金が無いから知り合いに(無料で)建たせればいいじゃない! という頭のおかしい発想を閃いたヤツに対してもだ……おっと、拳を握っていた。
「わざわざあらゆる状態異常の撥ね退け、刺客など指一本で捌ける『騎士王』に、安息の時間など無いということだ」
「…………」
「そう。『生者』、お前のように友として接してくれる者の方が珍しい。『円卓の騎士』は私の成すことに助力はするが、その力に対価が要求されている。そしてそれは、その者たちに働きかけることができない」
「つまり、外部に頼りたくなったと……」
なんで家を建てる話が、ここまで面倒な展開を引っ張って来れるんだろうか。
これもまた、一種の運か?
全然嬉しくないんだが、低すぎる運勢がそれを引き起こしているのかもしれない。
「なあ『騎士王』、お前は誰のためにそんな威厳を纏っている?」
「それが関係あるのか?」
「まあ、問答みたいなものだ。目的を再定義するってのも、人生の過ちに気づくための第一歩ってことで」
「……そうだな。『騎士王』の名が指すように、騎士の王──つまり上の者が気品ある振る舞いを示すためである。『生者』よ、其方はこの解にどのような意を含む」
久しぶりの政治モードを見たが、相変わらずクソ真面目なインテリみたいな態度だ。
そこについてツッコミたいところだが、訊いた分の答えを先にしておこう。
「幻想を抱くのは誰にでもできる。上ばかり見る者は、時に下を見ずに躓きそのまま起き上がれない。だからこそ、そんな光に頼らずに別の光を見る。自分たちを導こうとせず、ただそこにある光を」
「…………それに意味はあるのか」
「いや、要するに『理想が高すぎてもついていけない』ってだけだ。だから、ついていけないと思う者が現れる」
「それは分かっている。だが、問題は抱く幻想に関してだ」
ようやくの本題だろうか。
改めて意識を切り替えて、話を聴く。
「『緑弓の義賊団』、という組織を知っているか?」
「知るわけないだろ」
「あるのだ、隣国には。最近、彼らの義賊的振る舞いに国民が感化されている。悪しき王に反逆せし、勇気ある若者たちだとな」
「まあ、ありそうな展開だな。それで、何をどうやったら家を建てる話になるんだ」
そして、『騎士王』は事情を話す。
「──いや、それとは関係なくただ好きに使える家が欲しいだけだ」
「よし、この話は無かったことに」
「待ってくれ! せめてあと少し、もう少しだけ説明を聞いてくれ!」
ここまでの話をすべて無視した理由に、本当に帰りたくなったよ。
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