虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
天の戦い その09
和解できたわけじゃない、あくまで停戦協定のようなものが結ばれただけだ。
それを証明するかのように、早く協定が終われと念じる女騎士が一人……。
「なあ、ルリさんや」
「なんですか、ツクルさんよ」
「ずっと前に言っていた、『くっころ』さんはもしかして……」
「ええ、この娘のことよ」
なんとなく予想はしていたが、ルリが凄いと言ってた娘なのか。
最初のインパクトがアレなので、正直俺にはそう思えないんだが……。
「ほらリンちゃん、挨拶して」
「くっ……『リンスウェル』だ」
「略してリンちゃんよ。アナタもほら、リンちゃんに挨拶して」
「ツクルだ。ルリの夫、よろしく頼──」
チッ、と四方八方から聞こえてくる。
周りを振り返ってみれば、周囲にはリンのような恰好をした騎士しかいない。
だが誰も舌打ちをしている暇なんてないだろうし、きっと気のせいだろう。
「……よく聞こえなかったな。ルリ様の……えっ、なんだって?」
「だから、夫だ──」
『チッ!』
「なあ、そういうの止めないか!?」
どうやら気のせいじゃなかったようです。
こちらの世界でお作りになられた教団で、ルリ様はかなり崇拝されているようで。
それこそショウやマイは処女懐妊、俺という人間は存在を否定……いや、抹消されているようだし。
「まあ、俺の存在についてはともかく……全然ともかくじゃないが。ルリ、いっしょにアイツらと戦ってほしい」
「あら、逃げてほしいんじゃないの?」
「俺の最高で最強の奥さんは、こんなときに逃げようとはしないからな。そうするだけの力があるんだし、夫として甲斐甲斐しくお手伝いをするのが精一杯だよ」
「ふふっ、そうこなくっちゃ」
子供のような無邪気な笑みを浮かべ、ルリは辺りを見渡す。
そのたびに運よく危機から脱出したり、運よく討伐に成功する者が現れるんだが……彼女は気づいているだろうか?
「それで、何をすればいいのかしら?」
「この回復&持続回復マジックポーションを使って、『援天』の力をフィールド全体に届けてやってほしい。『巧天』特製の一品だから、俺が動いている間の時間稼ぎに充分遣えると思う」
「分かったわ」
「おい、貴様。ちょっと待て」
ルリに了承してもらったので、すぐに行動へ切り替えようと思ったら……女騎士がこちらへ来て、首に剣を向けてきた。
「なんだその態度は。仮に先の話が事実だったとして『事実よ~』……もし、そうであったとしてもだ! 私には、貴様が何かをするだけの覇気があるとは思えん。いったい何をしようとしている」
まあ、初見で虚弱な生産士からそれを理解できたら凄い方である。
ルリとは切っても切れない……というか絶対に切らせないように縁を結んだ《けっこんした》んだ、それくらいツーカーで分かる。
「見ていれば分かるさ。お前はただ、ルリをここで守っていてほしい……ダメな夫でな、それをやるだけの力が無い」
「ふんっ。貴様のことなどどうでもいいが、ルリ様を守ることは元より私の使命だ。言われなくてもやって当然だ」
「ありがとう」
「……ふんっ!」
俺たちのやり取りを見て、クスクスと笑うルリ……そういえば、こういう展開がお好きでしたね。
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