虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

天の戦い その08



「嗚呼、女神様……」

 このゲームにおいて、容姿補正とも言えない種族補正を受けた妻の顔は、天上の美姫とも呼べる域に達していたようだ。
 現実と見た目はほぼ変わっておらず、髪と瞳の色が少し暗めの金髪になっているだけ。

 だが、額に宝石が付いていた。
 カーバンクルだという彼女の種族特徴なんだと思うが、なぜか真紅の宝石ではなく緑色の──橄欖石ペリドットが嵌っている。

「アナタ、どうしたの?」

「ああ、いや。ルリはいつだって綺麗だなと思ってな」

「そういうアナタこそ…………ええ、いつも通り素敵よ」

 いつも通り、というところと長く開いた間に何の因果があるのか、今は訊かないでおいた方が良さそうだ。

「けど、どうしてここに?」

「外部から戦況を見ていたんだが、ここの映像だけ映らなくなってな。最愛の妻が心配ですぐに駆けつけた」

「アナタ……」

「ルリ……」

 互いに見つめ合い、おもむろに抱き着こうとした瞬間──首の後ろから激しい衝撃が叩きつけられる。
 即死した俺は、流れに逆らわないようにそのまま地面に倒れこむ。

「無礼者! 貴様、このお方をどなたと心得ての所業か!」

「リンちゃん!? あ、アナタ……大丈夫?」

「聖女様、このような男を周囲に近づけてはなりません。いかにルリ様と同じく神より肉体を授かりし者たちとも言えど、その聖性は等しくございません!」

 ガチャガチャと鳴る鎧の音が腹を立てる。
 どうやら剣を鞘ごと振って、俺に叩き付けたんだろう……今もなおそれを握っていた。
 しかし、妻は愛されているようだな……こういう状況だが、少々嬉しく思える。

「ほ、ほら見てください! 私に叩かれてニヤついております! やはり、一度神の身元へお帰りいただきましょう!」

「……そうね」

「ルリ!?」

「若い子に目を映すなんて、ひどいわ。私、悲しくなっちゃう」

 そう言った彼女は手で顔を覆って泣き始める……当然ながら、嘘泣きである。
 しかしそれに気づかない純情そうな騎士は怒り、今度は鞘から剣を引き抜いて構えた。

「死ね、下郎が」

 グサッと刺される俺。
 HPが0となり、粒子と化して教会に運ばれ──るわけないだろうに。
 すぐにこの場で肉体を再構築、新品の体で立ち上がる。

「ば、バカな……」

「なあ、ルリ。この娘って……」

「だって、教えていないもの。というより、私も半信半疑だったのよね」

「まったく、俺がお前にサプライズ以外の隠し事をしたことがあるか?」

 二人で笑い、侵略者たちが倒されていく様子を見ながら歓談を行う。
 リンと呼ばれた女騎士は、ただそれを呆然と見ていた。


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