虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

機械皇 その10



『見事だ、『生者』。まさか、『超越者』の動きをすでに再現しているとはね』

「……逸脱しているとはいえ、彼らこそが頂点です。あれ以上に参考にする者が、この世界のどこにいるのですか?」

『だが、言葉通りに実行できないのが世の常というもの。真似をしたい、というだけでできてしまえば……比喩ではなく、文字通り世界が終わってしまう』

「それでも止めませんよね? 貴方は貴方のため、私は私のために」

 そうでもなければ、アップグレードをしようとなんて思わないだろう。

 捨て身戦法で攻撃を続ければ、いちおうは『超越者』を倒せるのだと『SEBAS』から連絡が入った。
 まあ、『騎士王』だけは確実に無理なようだが……どんだけチートなんだよ。

「実験はこれでもう終了ですか? そうであるならば、報酬を貰って帰りたいです……少し、興が冷めましたしね」

『そうか。なら、報酬だ』

 すると、案内役の少女が資料を持って俺の下へ戻ってきた。
 ……運んで来てくれたのかな?

すべて・・・持っていってくれ。君という存在が確認できた今、すでに古くなった資料だ』

「ありがとうございます。『機械皇』さんの旧式と言えど、世の中ではまだまだ最新以上に新たなテクノロジーの宝庫ですよ」

 持ってきてくれた資料の一枚に目を通してみたが、本当にハイテクな物だった。
 本来であれば、すぐにアイプスルで研究を始めたくなるが……まだ続きがあるようで。


「忠誠。新たなるマスター、『生者』。どうかよろしくおねがいします」


 なぜか俺に頭を垂れて傅く少女。
 ゼンマイ仕掛けのようにギギギッと鈍く回した首で、モニターに声をかける。

「……あの、どういうことですかね?」

『…………』

「今さら黙らないでください」

『言っただろう、すべてを持っていけと』

 嗚呼、要するに少女型アンドロイドを俺にお持ち帰りテイクアウトしろと言っているようだ。

 ルリだったら、絶対に怒……らないな。
 むしろ、諸手を挙げて大歓迎だ。

「確認だけはさせてもらいますよ。貴方の駒に変わらないかどうか」

『……好きにするといい。すでにマスター認証は変えてある』

 数日間いっしょに居たのだ、それを書き換える機会もあったのだろう。
 今もなお、頭を下げ続ける少女を見て……一つ、決意をした。

「分かりました。大切に、育てさせていただきます」

『? そうか、貰ってやってくれ』

「ええ、立派な淑女に育ててみせますよ」

 お父さんだかお母さんだか分からないが、親孝行ができるぐらいにはしっかりと育て上げることを誓おうじゃないか。
 ……前例があれば、ショウとマイもそうしてくれる気がするし。


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