虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
お迎え待ち
W2
あれから数日が経過し、約束の日となる。
湖に釣竿を垂らし、IFの可能性に賭けてただじっと待っていた。
《旦那様……》
「そうだな、もうそろそろ止めるか」
すでに二時間といったところだろうか。
ボウズのまま経った時間=待った時間、という悲しい法則が成り立ってしまうため、暇潰しにもならなかった。
「まあ、魚自体は釣れているんだけど……」
俺がチラリと見た場所では、入れ食いのように魚が釣れていた。
釣り人はのっぺりとした人形、持つ釣竿は俺が手にする竿の劣化版である。
かつて、竿の性能が良すぎるので釣れないと言われてしまった。
しかし俺はそれ以下の品質の物を持てず、どうしようもなくなっていた……が、人形を使うのであれば話は別である。
「生態系を無視なら、水中対応のドローンで殲滅させてもよかったんだよな。電撃……は無理だけど、毒の餌でも目の前に撒けば」
《可能でございますね》
「だからこそ、やらないんだけどさ。あとで噂をされたら、困るのはこっちだしな」
お父さんは、家族に嫌われるようなことはあまりしたくないのだ。
地球や生き物に厳しい行動なんて取れば、ほぼ確実に何か言われてしまう……それだけは、なんとしても避けなければ。
「『SEBAS』、どうなっている?」
《怪しい機械などは存在しておりません。あらゆる方法での探知ですが、それすらも掻い潜る技術を有している可能性もあります》
「それならそれで、こっちもありがたく情報提携させてもらうんだがな。手袋を解析しているこっち以上に、レパートリーで勝てるってのはあんまり信じたくないな」
神器である『万能手袋』は、万物に触れるためにエネルギーを観測できるような性質を秘めている。
俺たちはそれを解析することで、手袋無しでも干渉可能になるよう研究を進めていた。
まだ干渉できないものもいくつかあるが、それでも観測だけであればかなりの数が可能となっている。
なのに、まだ見つけられない……これはもう一つの可能性があるかもしれない。
「──まだ来てないんだな」
《左様にございますね》
「明確にこの時間、と伝えられたわけじゃないんだし。そもそもプレイヤーに、その要求は酷だってことは分かっていたみたいだな」
約束事に時間制限が設けられると、普通のプレイヤーは対応できなくなる。
時間の流れる速度が違うので、ここだという時間に来れない場合が多いからだ。
「まあ、あくまでこっちでの時間を好きなように使ってもらうのが目的なんだし……そう短くもできないのか」
《旦那様》
「ああ、分かってる。レーダーが反応しているってことは、中に居るかそれとも面白いモノが見られるかってことだよな」
そう確認し、俺は空を仰ぐのだった。
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