虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

当千の試練 その12



「おー、温かいな」

《手袋による防熱効果にございますね》

「そりゃあ知ってるけど、まさかマグマでも同じように効くとは思わないだろう……」

 とっさに両手で抱え込んだ大きな球体。
 ミラーボールぐらいはありそうなそれは、つい先ほどスライムから奪った核である。

 転移技術を応用し、観測に成功した物をどこからでも取り寄せる……抵抗される可能性はほぼなく、たとえ敵の心臓であろうと観測できれば手に入れることができるのだ。

「そして、そんな心臓部分を失ったマグマのスライムは……ドラゴンの形なんて当然取れなくなって、ドロドロに解けていくっと」

 張りのあったボディはボコボコと泡を吹き出し、なんだかバブルタイプのスライムに変化しているのだが……それは置いておこう。

 いずれにせよ、もう勝敗は決した。
 核を奪われた魔物に、戦う力は残らない。

「ただし、かなり粘ります」

《強引な干渉でしたので。少なくとも、数十分はこのままとなるでしょう》

「こればかりは仕方ないだろう。まあ、俺も大人しく待つさ」

 最後の抵抗とばかりに、スライムはそのボタボタと零れるマグマを俺に伸ばしてくる。
 おそらく核を取り戻そうとしているんだろうが、すでにポケットを通じて転送をしてしたからそれは無理だ。

「水でも散布して、涼しくしてくれ。それまでは避暑でもして休んでいるからさ」

《畏まりました》

 そういって結界を構築し、お茶でも飲もうとしていたのだが……世界が突然色褪せ、俺の足元に魔法陣が展開されていく。

「──さて、行きますか」

 驚くようなことはない。
 すでにこの現象は体験済みだし、何より必ず起きると予測していたことだ。
 いっさい抵抗する必要もなく、あるがままに受け入れれば良い。

 そして俺は──光に包まれる。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 ???

「ここは……神様ごとに、支配する空間の構造も異なるのですね」

『当神の趣味嗜好もそうだが、何より権能と性質がそれを決定づける』

「なるほど。そして貴方様が、この場所を支配する神様であると」

 かつて出会った死神様のように、その姿はふわふわとした球体だ。
 だがその色は夜のような闇色ではなく、目に優しい肌色であった。

『可能な範囲で情報を開示するのであらば、オレは獣の神に該当する。それが何なのか、人であるお前には説明できない』

「ええ、お気になさらず。分を弁える必要があることは理解しておりますので」

『ならばよい。ある者たちに頼まれ、お前を試していた。この箱庭は、オレも管理者として創造に加わった場所だ。少しであれば、権限が無くとも干渉ができる』

 そして、獣の神は語る──


『試練は果たされた。お前は合格だ』


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