虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

当千の試練 その04



「まったく、不思議な奴だ……」

 目の前の光景は、とても信じがたい。
 人ではないナニカが動き、魔物たちを屠り続けるその様子。

 だが、その前に起きた出来事を思えば、すべてに理由が付けられる。

「タビビト、何者なんだろうか」

 異なる地より現れた旅人。
 奴はその技と知恵を以って、俺たちの危機に必ず現れ──救ってくれる。

 事実、この戦いが始まってから……そしてかつての死闘でも一人の死傷者もいない。
 魂は輪廻に向かうことなく、今も背中を並べて共に戦っている。

「宙を飛ぶ異形の鳥、噴出される霧、一瞬で癒える肉体。前例が無ければ、戦いの中で隙が生まれるところであった」

 タビビトはこれを、『どろーん』と言っていたような気がする。
 これらが俺たちの戦いをしている近くを飛び交い、傷を負った者が現れると的確な量の霧を吹きかけ治していく。

 ポーションの類いであることは間違いないのだが、タビビトが作ったともなれば伝説の薬エリクサーの可能性もあるかもしれない。
 それほどまでに効果がよく、一度目の戦いでは死にかけた者たちを治していた。

「代表! あ、あれっ!」

「……なんだ、あれは」

 そして視た、もう一つのナニカ。
 俺たちの背後から現れた白い人、顔もないし服も着ていない。

 だがタビビトが先に言っていた、味方の証である絵が施されていた。
 その印を持つ者たちは、本当に危険な魔物相手に戦うために用意したと。

「──下がれ! タビビトの味方だ!」

『オォー!』

 目を凝らして奥を視れば、見たこともないような魔物たちが現れていた。
 タビビトが絵を持つ者たちを送ってきたのは、おそらくそれが理由だろう。



 そして、凄まじい戦いを見た。
 本当に俺たちでは手に負えなかった魔物のようで、攻撃が当たった瞬間爆発する物や辺りに毒を撒き散らす魔物が居たようだ。

「あの洗練された動き、俺の動きなどはるかに凌駕している」

 武器を振り回す者、体術を使う者……魔法での戦いを行う者はいなかったが、それはあの異形の鳥が行っていた。

 弱らせた魔物に何かを飛ばすと、苦悶の声が魔物から出る。
 そして先に挙げたような事象が起き、誰も巻き込めないまま死んでいく。


 投擲用の武器など、そう多くは用意していない……この地区では、武器となる草木も生えていないからである。

 つまり、戦っていれば死んでいたかもしれないということだ。
 俺は引き継いだ力があるが、それ以外の者では太刀打ちできなかっただろう。

「恩に着るぞ、タビビトよ」

 危険な魔物が居なくなった今、その返礼を武で示さねばならない。

「いくぞ、お前たち!」

『オォー!』

 さぁ、戦いはまだまだこれからだ。


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