虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

焼肉演説



 古代人たちに協力を仰いでパトロールをしてもらい、小さな処理をし続けてもらった。
 居住区の辺りにも魔物が現れるのだが、すべてご飯に変わっていたらしい。

 少し量が多いことに首を傾げるも、すぐに倒していたため強化されることもなく低レベルでいたのが幸いだろう。

「──しかし、これから戦うべき魔物たちは違います。互いを喰らい合うことで強くなり続けた、強大な魔物たち。高レベルであり、一筋縄ではいかないでしょう」

 ゴクリと唾を呑み込む者もいた。
 しかし、彼らを英雄のように鼓舞することはできない……ではなぜ、俺がこの役割に就いているのか──

「その分、肉は旨い! この暴力的な香り、肉から弾けて溢れる汁! そして何より──味がイイ!」

 城のテラスからなんて演説しない。
 彼らと同じ目線に立ち、鉄板の上で肉を焼いているだけ……上で焼いたって、香りが届かないからな。

 英雄の言葉に惹きつけられた民のように、古代人たちもまた肉に惹きつけられる。
 最深部とも呼ぶべき魔物たちのレベルが異常な地区から、数体の魔物を狩ってきた。

 その肉を現在、調理しているのだが──これが本当に旨いんだよ。

「皆さん、誰かのために戦えなんて私からは言いません。あくまで目的は唯一つ──肉を手に入れること! それを誰といっしょに食べるかはお任せします、どんな肉であろうと私は絶対に美味しく調理しましょう!」

『ウォオオオオオオオオォ!!』

 民草を鼓舞し続けてきた英雄たちが俺の演説を聞けば、おそらく確実に首を傾げる。
 だがそれでも、俺には英雄染みた方法で彼らに勇気を与えることはできなかった。

 頑張ろうとしているときに、頑張れと言ってもあまり効果は無い。
 すでに覚悟を決めている時に、横槍を刺してしまっては逆効果だ。

 ならばどうするべきか──より覚悟が定まるよう、追加で目的を加えれば良い。
 連帯責任などではなく、あくまで個人の目的として……誰にも迷惑をかけずに利益を得られるのであれば、人はほぼ動くだろう。

「私が皆さんを全力で支援します。絶対に死なせません、その可能性すら与えません。戦いの終わりにあるのは、全員で宴会をするという未来だけです!」

 後ろで控えていた代表は、ハッとしてすぐに涎を拭う。
 そして槍を握り締め、天に掲げる。

「いくぞ、お前たち! 我らにはタビビトがついている! ──敗北などありえない!!」

 いや、それはどうなんだろうな?
 少なくとも俺という死人は出るわけだし。

 ……まあ、そんなこんなで開戦です。


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