虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
いつもの納品
冒険世界の初期地点へやって来た。
毎度のことながらふらりと彷徨えば、無限の死が俺を迎えてくれる。
人の波に揉みくちゃにされ、やがて生産ギルドに辿り着く。
「どうも、納品と依頼を探しに」
「──はい、納品承りました」
「それじゃあ、依頼を」
「──ギルド長がお呼びです、意味のない依頼捜索を止めて向かってください」
辛辣な言葉を受け、トボトボと生産ギルドの中を移動する。
すでに何十度も訪れた場所だ、案内など無くても問題ないぐらい歩いてきた。
「……依頼、まだ無いのか」
ため息を吐いてから目の前の扉を叩き、返事を聴いてから中へ入る。
そこには相変わらず忙しそうに働く生産ギルドの長が、書類とにらめっこしながら少しずつその山を崩していた。
「やあ、よく来てくれたね」
「依頼ですので」
「……ひどいな、ぼくはいつでも君と逢いたいと思っているのに」
「何を創るか分からないから、でしょう?」
それが正解、と言わんばかりの笑みを浮かべてくるのでさらに深くため息を吐く。
まあ、こっちの世界でかなりお世話になっていることに違いは無いのだ。
この性別不明なギルドマスターだったからこそ、俺はこうして今も適当なゲームライフが維持できているのだから。
「ポーションはいつも通り提出しておきました。ですが、忙しいのにわざわざ呼ぶ必要も無かったでしょう?」
「ハッキリ言えば、予め話を聞いておかないと仕事が増える……って、この話は前にもしたと思うんだけど?」
「ええ、されましたね。そのうえで、そんなギルド長にお土産をプレゼントしようと思いまして……」
一度錯乱した時にもあげた、色んな意味で元気になるポーションである。
何があるか分からないし、おまけしてダース単位でポンと出す。
「……ああ、理不尽の種が」
「失礼ですね!? ……コホン、迷惑にはならない品ですので受け取ってください」
「ツクル君、これは賄賂に入らないかな?」
「いえいえ、献上品です」
少しばかり、過程を省いだけだ。
どうせ最終的にはギルド長の元へ届くわけなんだし、それが早くなったとしても誰も困らない。
「効果は信頼しているんだけど……君のポーションは、どれもクセがあるからね」
「水で薄めれば調整できる分、効果は高い方が望ましいではありませんか」
「……うーん、死者蘇生ができる物を薄めようとするのは君だけかもしれないよ」
「まあ、困っていませんので。むしろ売れなければ、それこそ困ります」
だからこそ、ギルド長には共犯者となってもらっているのだ。
互いにそれを理解しているため、数秒後には顔を合わせて笑い合う。
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