虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
獣王談(01)
ツクルの居なくなった王城で、どっかりと玉座に座った兎耳族の女性は深く息を吐く。
「アイツ、本当に役立ったな」
「ええ、【獣王】様に代わって新たな王に成られたとしても、私どもには異存はございませんでした」
「それは嫌だが。たしかに力はあるし、知性もある。ウチの子を一人くれてやるぐらいには、認めてやるよ」
ツクルは知らずに帰国したが、【獣王】には幾人もの子供が居る。
ただそれは血の繋がりを重要としているのではなく、【獣王】のお目に適ったかどうかで決められるのであるが。
「アイツもずいぶん懐いてみたいだ。正妻が居るみたいだが……まあ、二番目ぐらいなら構わないだろう」
「また勝手に決められて……一度揉め事になられたのをお忘れになりましたか? せめて予め、あのお方にお伺いを立てられては」
「──子供を手放したくないと駄々を捏ねる父親を、どうすればいいんだ? 『生者』と同じ『超越者』、ちょうど出かけてて助かっただろう」
ツクルの短い滞在期間では、この国に住まう真の強者たちを知ることはできなかった。
そう、【野生王】や【獣王】だけでなく、この国にはまだまだ猛者がいたのだ。
ちょうど出払っていたという意味では、ある意味強運だったのだろう。
子供を連れ帰ったツクルを見て、いったい夫はどう思うのか……少しばかり頭が痛くなる想像をしてしまう【獣王】。
「仕事ぶりはまあいい。そんなことより、調べてもらった情報があるだろ?」
「はい。星渡りの民のことでしたら、こちらに資料が──」
「面倒だ。口頭で分かりやすく纏めてくれ」
ツクルを引き留めていた外交官の獣人は犬耳を垂れ下げ、やれやれといった表情を浮かべたのちに情報を【獣王】へ伝える。
それをすべて聞くと、彼女の頭上で兎耳が直立した。
「権能の種はそれか。けど、分かってもどうしようもないみたいだな」
「彼もあまり隠してはいないようで、わざとこちらに開示しているようでした」
「……一杯喰わされたか。まあ、条約と契約があるから狙われはしないだろう」
ツクルが呑ませた条件、その一つが条約の締結と契約の成立だ。
その内容で少しばかり騒動もあったが、最終的には両者ともに得をするような……実りのある話で纏められた。
「『獣神』も連絡を一度して以降、何もしようとはしてこない。本当に何者だろうな」
「神の試練を受けし者、でしょうか?」
「どうして神から人の名を聞こうか……まったく、頭が痛くなりそうだ」
「それはこちらの台詞です。せっかくツクルさんが減らしてくれたのですから、これぐらいの量は仕事をしてください」
玉座の横に置かれた仕事の多さを見て……さらに頭痛がする【獣王】であった。
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