虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
野生王 その16
「『闘仙』」
戦闘スタイルが変化する。
完全に肉体のみで闘う格闘家から、自然の力を扱う武人へと。
「地裂脚」
二度踏み込んだ脚の力は、大地を裂く破壊力を解き放つ。
罅割れた地面が【獣王】を襲うように、急速な勢いで侵食を行っていく。
一度舌打ちをしてから、【獣王】は安全な場所だけを的確に踏んでツクルの下へ飛行するように突き進む。
「天閃腕」
しかしツクルも、何もせずにいたわけではなかった……再び一度大地を踏みしめ、その衝撃を肉体に取り込む。
それを循環させたのちに片腕に注ぎ込み、勢いよく地面と水平にして薙ぐ。
『……は?』
空が割れた。
誰もがそう錯覚する現象が起きる。
音速の域で振られたその腕は、凄まじい衝撃波を生みだした。
空間は歪み、震動は『地裂脚』が使われた際と同じように激しく起きる。
とっさに屈んで避けた【獣王】だったが、後ろを振り返り見たモノは……上空同様に拓かれた広い外の光景だった。
「驚いているようですが、さすがにこれは神器の力が無いとできませんよ。まあ、本人はあっさりこれ以上のことをしていましたが」
「『闘仙』……はるか東に住む仙人か。俺もぜひ会ってみたいぜ」
「では、機会を用意しましょう──もちろんこの闘いが、終わったあとでですけど!」
そしてツクルは叫ぶ、自身の考え得る中でもっとも最強の名を──
「『騎士王』!!」
何かツクルの肉体に変化が起きたわけではない……だが何かが、確実に変わっていた。
そう勘が囁き、【獣王】は緊張感を張り詰めて維持する。
自身の力を全力で解放し、このあとの事態すべてに対応できるようにしておく。
「これを使ったからには、私は貴方を倒さなければなりません……紛い物とはいえ、今の私は最強ですから」
「最強ね……『騎士王』もまた、ずいぶんと有名な名だ。そんな奴らと『生者』は会えるのか……羨ましい限りだ」
「ええ、そうでしょう。素晴らしき友と逢えて、私は幸せ者ですよ」
軽口を叩き、地面を蹴りだす。
本来であれば鈍足でしかないツクルの速度は、身に纏う小さな結界から魔力を炸裂させることで推進力を得る。
文字通り、命を削った戦闘を行う。
死んでも蘇り、その一瞬あとにはまた死に蘇る……『生者』の権能を全開で使わなければ、『騎士王』の力を模倣することは叶わなかったのだ。
「私は内政など、やったことがないので遠慮しておきます。王は王らしく、自らの義務を果たしてください」
「安心しろ。うちの大臣は新人への教育も上手いからよ……すぐに上手になるさ」
そして、闘いは終幕へ──
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