虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
野生王 その12
堂々と王城をヤーが歩く中、胃が痛くなる思いで俺は赤い絨毯を踏んでいた。
なぜだろう、英語をイメージすると物凄い著名人しか踏めない気がしてきた。
「だいじょーぶか?」
「だ、大丈夫ですよ。それより、ヤー君から見て【獣王】様はどういった方なんです?」
「んー……つよい?」
「それは分かります」
いつもの『SEBAS』情報によれば、獣人という種族そのものが武を尊び、王は実力で決まるそうだ。
つまり王の座に就くということは、同時に獣人最強の名を手に入れることと同義だということで……。
「私が闘いを挑まれても、望まれることはできないんですよね」
「せーじゃはよわい? でも、つよい」
「やり直していますから。あまり武人は好みませんよ、この闘い方は」
ヤーが【野生王】という概念に近しい存在であれば、俺の闘い方にも問題なしと感じられるだろう。
野生とは弱肉強食、つまり最後に肉を食らう者が強者なのだ。
どのような手段でも構わない、生きていることこそが弱者を糧としてきた証拠だから。
「もし、私が闘いを挑まれそうになったら、ヤー君が止めてくれますか?」
「わかった!」
よし、言質は取れた!
これならば俺も、安心して謁見できる。
◆ □ ◆ □ ◆
──なんて、甘い幻想はルリの億分の一でも運を上げてから言う言葉だった。
ジリジリと自身を焼く太陽を少しばかり恨ましげに思い、空を仰ぐ。
目の前で準備運動的なことをしている、凄まじい死の予感を放つ獣人。
放たれる純粋な闘気が俺に圧迫感を覚えさせ、殺していると気づいてくれる者は誰もいないのだから少し心が痛い。
「俺は闘えるならそれでよかったんだが、本当にあの条件でいいのか?」
「ええ、お蔭様で声援が篤いです」
「ふっ、俺もずいぶんと嫌われたものだ」
少しばかり垂れてしまった頭部の耳が、哀愁を漂わせているのが子供の親として同情を感じ得ない。
闘いとか関係なく友好を築けたら、まずは最初に親トークから始めよう。
「俺が勝てば、お前は俺の代わりに内政をすべてやる」
「私が勝てば、【獣王】様にはしっかりと内政の仕事を行ってもらいます」
「……アイツらにしてみれば、どちらが勝っても捗るのだ。俺たちには得が無いな」
「いえいえ、お気になさらず。私としては貴方と闘い、友好的な関係が築けることを望んでいますので」
互いに準備は整った。
あとは審判席に立っているヤーの号令を待つだけである。
「トー様、せーじゃ──頑張って」
『おう!』
両者ともに、その声に大声で応える。
「それじゃあ……スタート!」
「SF」の人気作品
書籍化作品
-
-
-
3431
-
-
-
149
-
-
4
-
-
125
-
-
52
-
-
93
-
-
22804
-
-
4
-
-
222
コメント