虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

野生王 その11



 ドローンを飛ばして把握はしていたが、行くことがないと思って端折っていた。
 だが来てしまったからには仕方がない、集めた情報を元に説明を行おう。

 小さな丸の方は、要するに王族や貴族が住むVIPエリアとでも呼ぼうか。
 丸のもっとも奥には城があり、そこへ続く真っ直ぐな道以外を貴族たちが使っている。

 ただ、貴族といっても獣人たちにそういった隔ては存在せず、少しばかり高級なエリアと言った方が正しいだろう。
 貴族も貴族で、この国では強ければなることができるらしく、大きい方の丸と同様に賑やかな楽園を見ることができた。

「せーじゃ、だいじょーぶか?」

「……少し、緊張してしまって」

 そんな大通りを、兵士に連行される形で歩いている俺……状態異常に『ストレス』があるなら、もうなっているかもしれない。
 というか、状態異常だったら治せたんだよこんちくしょう。

「セージャ様、そうお固くならずとも大丈夫ですよ。我らが王は、【野生王】様を無事この国まで返していただいた貴方に、礼はすれども無碍な扱いなどは致しません」

「は、はぁ……それは助かります」

「トー様はつよいヤツにやさしーから、せーじゃはだいじょーぶ!」

「ほお、セージャ様は【野生王】が認められるほどの強者ですか! なるほど、これは頼もしいですね!!」

 隠れている伝令役に届くような大声で、兵士が叫びだす……物凄く瞳が申し訳なさそうにしているので、俺も怒れずに我慢する。

 しかしまあ、見た目普人族のヤーがどうして【獣王】を父親として認識しているんだろう──いわゆる、拾い児ってヤツか?

「ところで、私はこれからどのようなことを行うのでしょうか? 何か礼儀作法が必要なこと、また衣装が要るのであれば予め確認しておきたいのです」

「ああ、問題ありません。【獣王】様は格式張ったことがあまりお好きではございませんので、セージャ様の望む振る舞いをしていただければそれで充分です。あくまで、公式の場での細かい作法が必要ない、というだけですけどね」

 つまり、入った瞬間に銃を乱射するようなことは止めておけと……やる気も殺る気も別に無いけどさ。

「ただし、注意がございます」

「注意、ですか?」

「はい。もし【獣王】様に闘いを挑まれても受けないでください。フォローはその場に居る者全員で行います」

「それは……なぜですか?」

 ごくり、と唾を呑み込んでから確認をすると……兵士はそれを教えてくれる。


「──【獣王】様が闘い好きな戦闘狂で、いつまで経っても内政が進まないからです」


 いつだって、世の中は世知辛かった。


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