虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

野生児 その02



 N5W1

 このまま北に行こうと思ったが、この先は少しずつ寒くなっているそうで……恰好からして寒そうな少年が、わざわざそんな場所にいるとも思えない。

 実際訊ねてみれば、住んでいた場所は寒くは無かったとのこと。
 南の熱い地域でもないと言われたので、とりあえず西に向かってみた。

 いや、東は怖いから。
 未だに守護獣の恐怖が忘れられないし、何よりそういった存在って時間の感覚がかなりアレだしな。

「しかしまあ、広い草原ですね……ここに見覚えはありますか?」

「うーん……分からない」

「そうですか。あの地点は登録してますし、まったく見覚えが無ければ戻ることも可能です。とりあえず歩いてみましょう」

「うん」

 N5と繋がったこのフィールドは、丘もないただただ広い草原だ。
 だだっ広いため、地平線まで見えるというなかなかないレアな場所……日本が異常なだけで、実際海外だと結構見られるらしいが。

「【野生王】君は……呼びづらいですね。少しの間ですが、ヤー君と呼んでも構いませんか? 君が王だとバレるのを、お父さんがどう思うのか分かりませんので」

「んー、いいぞ」

「ありがとう、ヤー君。あっ、よければ──これを食べないかい? 美味しい飴だけど」

「……飴?」

 数個の飴玉を手に取ると、先に一つ自身の口の中へ放り込む。

「やはり甘いです」

「…………」

「お一つ、いかがですが?」

「……うー」

 野生の王を冠するだけあって、食べ物に含まれる毒を気にしているのか。
 それとも、ただ甘い物への好奇心と何かを天秤にかけているのだろうか……とにかく、気になっていることは間違いない。

「では、こうしましょう。これは私がヤー君に無理やり食べさせました。嫌がったヤー君に強引に、です」

「…………」

「それじゃあ、やってみましょう」

 ゆっくりと手を伸ばしていく。
 しかし【野生王】──ヤーはそれを受け入れず……俺の手を弾こうとする。

「食べ物は大切にしないといけませんよ」

「……っ!」

「はい、いただきますっと」

 暗躍街で得た転移技術を、小規模ではあるが完全にモノにした。
 小さなアイテムであれば一瞬で転送が可能であり、今回はヤーの口の中へ直接飴玉を転送させたわけだ。

「むぐぅ……あむあむ──うまーいっ!」

「それはよかったです。あっ、それではもう一つ食べますか? この飴玉、実はいろんな味がありましてね──」

「うんっ!」

 喜ぶヤーに、俺は全種類の飴玉が入ったバスケットの中に入れて渡しておく。
 舐め切るのを待たずして、噛み砕いて次を入れようとする姿にほっこりする俺だった。


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