虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
野生児 その01
「うまー!」
とりあえず、近づいてみる。
野生風味溢れるというか、石器時代のような恰好をした少年が、牛から吸い上げた乳に満足し、ちょうど牛を解放していた。
「またよろしくなー!」
牛はゴメン被る、と言わんばかりにこの場から猛烈な速度で去っていく。
……俺を甚振る時の速さより移動速度がいいことから、俺をずいぶん舐めてイジメていたことが分かるがそこはどうでもいい。
「うわっ! ニンゲンがいた!」
「えっと、初めまして……かな?」
先ほどまで夢中で牛乳を飲んでいたからなのか、俺の存在に気づいてなかったようだ。
改めて顔を合わせ、ジッと視る。
死の気配は当然漂うのだが、暗躍街で得た新たな機能が反応している。
「私は『生者』、ツクルと申します。君のことを訊いてもいいかな?」
「名前は言えない……けど、こう言えって言われてる」
そして、少年は笑顔で告げた。
「──【野生王】!」
◆ □ ◆ □ ◆
王、という名を冠しているのであれば少年は相当強い。
起動した『超越者』探索装置に反応がないということで、彼の持つソレは称号ではなく職業だ。
子供のような容姿であろうと、ゲーム的なシステムがあるこの世界なら貧弱な大人程度容易く捻り潰せるだろう。
「そうですか、王様でしたか。これはとんだ失礼をしてしまいました」
「違う、王様はトー様だ」
「トー様、ですか……ご家族ですか?」
「そうだ!」
えっと、つまり少年は王子様なのか。
ならばなぜ、【野生王】を得るような環境に居たのだろう。
見た目は普人族なので、人間の王様のはずだ……近辺を探せば、彼の住んでいた国も見つかるか?
「君は、どこから来たのかな?」
「えっと、おれは…………あれ? おれはどこから来たんだ?」
「それを訊きたかったのですよ。しかし、迷子でしたか」
牛乳飲んでたし、その周辺に人がいないことも分かっている。
喉の渇きを満たすためだったのか、それとも好奇心からだったのか……どちらにせよ、こういった無邪気な行動で住処から離れてしまったのだろう。
「よければ、いっしょに探しましょう」
「……いいのか?」
「私にも、子供が居ましてね。君のような子が困っているのを見捨てたら、きっと怒られちゃうんだ。だから、私のためだと思って手伝わせてはくれないかな?」
「うん!」
マイはどう思うかよく分からないが、主人公的な才能を秘めたショウであればきっと少年を助けただろう。
お父さんとして、ショウが憧れ続けてくれるような理想像を保たなければ。
そんなこんなで、少年の家を探す旅が唐突に始まった。
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