虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
牛乳
「ふぅ……回収終了っと」
半殺しにした牛たちではあるが、動けなくして止めておいたことにはわけがある。
いつもお馴染み:DIY:を発動し、この世界初の乳搾りを行っていたのだ。
「でも、おかしいよな」
《どうされたので?》
「わざわざ牛の乳を搾って、自分たちの物にしてるんだぞ。そりゃあ生きるために動物を家畜化してたんだろうけど、仔にやるはずの乳を奪って一部の奴は不味いと言う……人間にやるためのものじゃないんだから、当然に決まってんだろ」
《旦那様……》
この台詞、大量の牛乳缶が散らばってなければさまになっていたかもしれない。
いや、使い勝手がいいだろ牛乳って。
乳製品はもちろんのこと、アイスクリームが作れるようになる。
子供たちは大喜び、その気になれば甘い物だと渡した相手の腹を……
「うん、これは無しだ」
食べ物は大切に、そうでなければルリに怒られてしまう。
そんなことをしていたら、現実で牛乳が飲めなくなってしまうよ。
「:DIY:で作った謎牛乳よりは、よく知っている牛の乳の方がまだ安心だな」
たとえそれが俺を殺した奴であろうと、何が原料となっているかで救われることってあると思う。
ただ食べろと言われて物凄く美味しく感じたら、何が元となった料理なのか訊きたくなるのと同じ理由だ。
「しかし、結構な数が居たよなー。俺って、そんなに殺しやすいのか?」
《生えた草よりも簡単に殺せ、それで経験値が貰えますので……》
「魔物化した家畜なら、たしかに殺したくなるメタル系だな」
メタル系と異なるのは、受けるダメージではなく与えるダメージが1なことか。
膨大な経験値と、それがすぐに何度でも手に入る利便性……うん、殺したくなるな。
殺されては困るので、牛たちは一時的に気絶させている。
しかしこのまま放置で危険なので、直るまではここに居るつもりだった。
「さて、そろそろ次のエリアを確認しようかな……って、ん? 『SEBAS』、ちょっとあっちの方へ一機飛ばしてくれないか」
《畏まりました》
俺の視界には、小さな影が映っている。
フォルムからして、それは俺の周辺に居るのと同じタックルカウなんだが……下の部分に違和感を感じた。
《──発進しました》
「よし、視覚を合わせてくれ」
ポケットからサングラスを取りだし、しばらく待つ──すると、俺の視界は辺り一帯を俯瞰したものへ変化する。
まず自分の居る場所を確認し、それからドローンを俺の意思で操縦。
目的地の辺りを見つけ、カメラをアップして探ってみると──
「……子供?」
漫画のように牛へ直接口を当て、乳を吸いだす子供の姿がそこにはあった。
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